高橋久美子の旅のメモ帳vol.13「福岡ぶらりと食の旅(夜・はしご酒編)」

福岡県

2022.12.28

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高橋久美子の旅のメモ帳vol.13「福岡ぶらりと食の旅(夜・はしご酒編)」

作家・作詞家として活躍されている高橋久美子さんが、旅先でとったメモを起点に心にとまった風景を綴る連載エッセイ。前回のお昼編につづき、追体験したくなるはしご酒の旅へ。

高橋久美子の旅のメモ帳vol.12 「福岡 ぶらりと食の旅(お昼編)」

福岡と言えば屋台文化である。15年以上前に初めて中洲に行ったとき、川裾にずらりと並ぶ屋台に興奮したのを思い出す。博多ラーメンだけでなく、焼き鳥や鉄板焼、おでん、2畳ほどのスペースにそれぞれが俺の城を築き上げていた。会社帰りの人、学生らしきカップル、女性の観光客、若い人が多いことにも驚いた。お祭りの屋台とはまるきり違う。想像していたよりずっとしっかりした食事処がそこにはあった。
こうして屋台を渡り歩く文化があるからだろうか、福岡というとはしご酒である。今回は、こってり博多節というよりは、私が一人で福岡ぶらりをした際に立ち寄る、新しい形の飲み処を中心に書きたいと思う。

たとえば、仕事帰りまだ明るいうちから、大濠公園の南側にある「ECRU.(エクリュ)」へ行き、軽めのナチュラルワインを一杯いただく。このお店はコーヒーや焼き菓子もあるので、お酒を呑まない友達とも訪れやすい。交差点に面していて、店内はガラス張りで開放的な空間。座ってどっぷりと過ごすというよりは、30分スタンディングをしたら気持ちよく出てきて、次なる店へ向かう。

福岡に来ると毎回訪れていたお店が大濠公園駅近くの「クロマニヨン」だった。ナチュラルワインの品揃えがすばらしかったし、生産者がこだわり抜いて育てた九州産のお肉や野菜、魚介類を使ったお料理の数々は他の店では味わえない物語を持っていた。一人で行ってもカウンター席で静かに呑めるし、おしゃべりしに来るというより、しっかりと味わうお店なので、食いしん坊の私にはとてもありがたかった。
そのクロマニヨンは、現在は移転のため休業しているのだが、姉妹店の「酒場サークル」がある。呑み部門だけでなく、前述のようにご飯が充実しているので、軽いあてからメインまでしっかり食べられるのが嬉しい。さらに、お手軽なお値段なのもあって、今かなりの人気だと聞く。こうして、少しずつお腹と心を満たしながら、夜は更けていく。私の胃袋は6割を超えた頃だ。

さて、大濠公園を離れて薬院の「二◯加屋長介(にわかやちょうすけ)」へ行ってみよう。博多駅にも入っているし、なんなら東京の中目黒にもある名博多居酒屋だけれど、一人でも入りやすい。ビールと、ごま鯖という特性のゴマダレと和えた鯖の刺し身をいただく。鯖の刺身は新鮮でないと食べられないから、これを食べると福岡へ来たなあと思うのだ。九州の甘めの醤油だれも、この土地で食べるからこそ何倍も美味しい。
ここで夜うどんといきましょう。昼編でも、福岡うどんの魅力を書いたけれど、夜7時に居酒屋でうどんを食べるなんて東京では考えられない光景だ。でも周りを見渡すと、おお、けっこうな割合でうどんを頼んでいる。かき揚げうどんとか、ごぼう天うどんももちろんだが、私はまだここでは素うどんだ。胃袋のスペースは限られているので、トップ・ギアには入れない。

福岡は夜飲みのルールが厳しそうなイメージがあるけれど、とても自由な街で、帰り際に店主が他店を紹介してくれたりもした。屋台の延長線のように、ちょっとひっかけて帰る人もいれば、その場にいる人と会話を楽しむ人もいて、そうやって夜が更けていくのもいいなと思う。

「とどろき酒店」という酒屋さんがある。日本酒やワイン、クラフトビール……お土産に何を買ったらいいだろうというときにはこのお店を訪れると、好みのものが必ず見つかる。全国、いや世界中のお酒の造り手の思いを代弁してくれるお店だとも思う。

薬院に、とどろき酒店のスタンドがあり……おいおい、また立ち呑みかい? 大丈夫、そんなに酔ってないですよ。一軒で1〜2杯しか呑んでないので、まだまだ宵の口。ということで、私はここで日本酒にいってしまう。とどろきさんでは是非ワインも味わってほしいけれど、福岡に来たら日本酒が飲みたくなる。芳醇な「庭のうぐいす」が飲みたいですねえ。てなわけで、立ち呑みのカウンターで、しっぽりと日本酒とお番菜をいただきましょうか。はしご酒をするときに必ず実行してほしいのが、お酒の倍の水を呑むということ(実際、倍の水は飲めないけど心がけるようにしている)。美味しく楽しく呑むには、水が必須である。

さあて、そろそろ退散しましょうか。
1、2、3、4……けっこう行きましたね。友達と行くのも楽しいし、福岡の素敵なお店は一人で行っても心配ない。素敵な店には素敵なお客さんが集っているので、ときにお店の方やお客さん同士で会話を楽しみながら、その一杯、一皿を楽しむ。

「とどろき酒店 薬院stand!」からの帰り、お洒落なコーヒー屋さんに明かりが灯っている。呑んだ帰りにはコーヒーが飲みたくなったりするよねえ。なんと、「REC COFFEE」の薬院店は24時までやっているそうなのだ。酔いざましにちょっと寄っていこうかしら。締めのコーヒーを飲みながら今日一日を振り返って、楽しかったなあ、福岡に来てよかったなあと思ったりする。REC COFFEEはコーヒーやエスプレッソ系の美味しさもさることながら、デザートの手作りケーキ類も魅惑の一品。昼間に立ち寄ったときには必ずケーキも食べてしまう。

というわけで、夜の部、ここからはもう明日に備えてちゃんと眠りましょう。街の明かりはまだ消えるはずもなく、後ろ髪引かれる思いで帰ることもあれば、宿のバーで寝つけの一杯をいただく往生際の悪い日もある。
明日は、太宰府天満宮へ行こう。太宰府エリアもなかなかどうして歴史あるいい街なのだ。福岡は、昼も夜も私たち旅人を温かく迎え入れてくれる。

 「ECRU.」

「ECRU.」は朝8時からやってるので、カフェラテを飲む日もある。

酒場サークル

「クロマニヨン」、そして「酒場サークル」でも名物のオムレツ

ごぼう天うどん

福岡といえば、ごぼう天うどん! 丸天ものせた。

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#グルメ #福岡県 #飲み旅 #エッセイ

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作家・作詞家 高橋久美子

作家・作詞家

高橋久美子

1982年愛媛県生まれ。作家、詩人、作詞家。バンド、チャットモンチーのドラマーとして活躍後2012年より文筆家として活動する。詩、エッセイ、小説、絵本、絵本の翻訳のほか、様々なアーティストに歌詞提供を行っている。主な著書に、旅エッセイ集『旅を栖とす』(角川書店)、小説集『ぐるり』(薩摩書房)、詩画集『今夜 凶暴だから わたし』(ミシマ社)エッセイ集『いっぴき』(ちくま文庫)など多数。近著『その農地、私が買います』(ミシマ社)が話題となっている。

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