大阪・新今宮に分散型ホテルの可能性を見た~OMO7大阪 by 星野リゾート滞在記①~
月刊旅色で特集を組んで追いかけてきたアルベルゴ・ディフーゾ。もとは空き家や文化財の保存を名目としてホテルにカスタマイズする、小規模宿泊施設の協業を意味した“分散型ホテル”という概念が、コロナ禍のなかで再注目を集めている。都市に丸ごと泊まる観光ホテルを謳っている「OMO7大阪(おもせぶん) by 星野リゾート」を2回に渡ってリポートする。
目次
2019年の着工前から話題であった星野リゾートの「OMO7大阪」が2022年4月にオープンしたと聞き、取材を申し込んだ。これまで2018年の旭川を皮切りに、大塚、京都東寺、那覇など11施設を展開してきたOMOブランドのコンセプトは「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市ホテル」。“日雇い”“あいりん地区”といったワードで語られることが多い新今宮の土地でどうやって都市観光を促進させようとしているのか、追いかけてきた分散型ホテルの答えがあるかも知れない――。大阪出身の僕は、いつも帰省する気持ちとは違った高揚感で新幹線に乗った。
新今宮駅に、初上陸。
東京から新幹線で新大阪へ。あえて御堂筋線に乗らずに大阪駅の大屋根とグランフロント周辺の開発状況を眺めて、環状線で新今宮駅へ。駅構内から進撃の巨人よろしく、さっそくその威容を現したOMO7大阪。立ち止まって見上げる人も。こんなに近いとは。駅直結かのようなインパクトがある。
ホテルへの最寄り出口とは反対の西口から出て周辺を散策してみる。大阪で30年ほど暮らしていたのに、このあたりはほとんど知らない。あびこ筋に出ると黄色と赤の看板が目に付く。ひと際派手なパチンコ店と見紛う、その名も「スーパー玉出」に入ってみる。1円セールで有名な同店、そのうわさは伝え聞いていたが、この日が初入店。山積みにされた白飯(118円)の隣にはハムエッグ(118円)など大量の総菜。
路地に入ってぶらぶらしてたらコインランドリーの前にいたおっちゃんに、「雨降りそうやなー」って声をかけられる。「ほんまや、曇ってきたな」っていつの間にか大阪弁に。駅の高架下にある南海電鉄が運営しているエリアコミュニティ施設「さんかくち」に入りたいのをこらえて、いよいよOMO7大阪へ。大きなオブジェが印象的なエントランスプラザからは出入りができないため、メインエントランスへ。
ビリケンさんが出むかえるOMO7大阪

エントランスプラザ前。ここを左に進むとメインエントランスが見えてくる
駅前14,000平米の敷地に建つ14階の巨大ホテルは、白い外装膜に覆われているため大きさの割に威圧感はない。エントランスでは 通天閣でおなじみ“幸運の神様”ビリケンさんがお出むかえ。
このビリケンさん、はじめは「ベタやな。。」くらいの印象だったけど、何度か外に出かけて帰ってくるうちに、不思議と「ただいま」と声をかけて足を触ってしまう。すでにたくさんの人が触った跡があった。
エスカレーターで2階に上がり、たこやきをイメージしたデザインの通路を抜けると、パブリックスペース「OMOベース」に。
突然非日常に引っ張り込まれる木彫り実演
まずはOMOで有名な巨大な近隣案内図「ご近所マップ」を眺めようとしたら、マップの前に置かれた畳の上で木彫りの実演をしている職人がいて目を奪われた。天神橋にある木彫前田工房の代表・前田暁彦さんが大きな手ぶりで技術の説明をしている。ロビーに入るなり大阪の職人に触れて、間違いなく気分は高揚してくる。
新今宮の新リゾート「みやぐりん」
「OMOベース」のチェックインカウンターやカフェラウンジのどこからでもアクセスできるガーデンエリアが「みやぐりん」。新今宮+グリーンの名のとおり緑の抜けた空間が気持ちいい。一駅隣の天王寺に2015年にできた「てんしば」にも通じる、街の風通しを良くするこの場所は、OMO7大阪をもっとも象徴する場所だと思った。デッキテラスや散策路があり、街とホテルをシームレスに繋ぐパブリックスペースの機能を体で感じることができる。見た目だけではなく外装膜による日射低減効果やみやぐりんの緑地による冷却効果は、周辺環境への影響も考えられているとのこと。
夜はさらに街の一部となるみやぐりん。毎日20~22時開催の「PIKAPIKA NIGHT」では、“元祖たこ焼き”で有名な「会津屋」と西成のクラフトビール工場「Derailleur Brew Works」の屋台が出て、浴衣姿の宿泊客が芝生をそぞろ歩く。ビールとたこ焼きと浴衣が相俟って縁日に参加しているようなワクワク感で思考が弛緩してきたあたりで、うっすらと花火の音が聞こえてきた。
プロジェクションマッピングとは異なりLEDで間接的に光を当てるため柔らかな見え方となる
5,265枚の白い外装膜に約13,000個のLED照明を使って映し出された花火や大阪モチーフの映像が毎日約10分間投影される。このとき、新今宮駅のホーム上の人、外の道路を歩いてる人、みやぐりんの中の人が同じ方向を見上げていた。2022年も天神祭りの花火大会は中止となったようだけど、これもひとつの大阪の花火大会。
「なにわネオクラシック」ときつねうどん
いい宿に泊まる楽しみの一つが、食。しかも“天下の台所”“食いだおれ”と言われる大阪、地元ながら期待は高まる。大阪人をして世界一と言わしめる食文化を深堀りするためにOMO7大阪が編み出したテーマが「大阪の食の本質を表現する」。「OMOダイニング」では豊富な食材、自由闊達、合理精神をキーワードにフレンチの手法をベースとした創作料理のコース2種「なにわネオクラシック」と「なにわ串キュイジーヌ」(各コース13,000円)が楽しめる。僕はよりディープに大阪の郷土料理を楽しめるという「なにわネオクラシック」をいただいた。
「なにわネオクラシック」コース
内容:箱寿司、割鮮(かっせん)、半助、船場汁、煮おろし、どて焼き、かやくご飯、箱寿司
※時期や仕入れ状況などによって内容が変更になる場合があります。
ディープの所以は、メニュー名と見た目、味のギャップに現れていた。たとえば大阪でウナギの頭のことを指す「半助」。食材を無駄なく使うという合理精神を、フレンチで豚の頭の煮凝りを意味するテッドフロマージュの手法で解釈している。ほかにも船場汁がブイヤベースといったように、料理ジャンルではなく、より食の本質を考えさせてくれる。僕は大阪でお造りのことを指す「割鮮」が目でも味でもとても楽しめた。フグの造り、いわゆる“てっさ”をハーブのスチームのなかに閉じ込め、ネギのソルベなどと一緒に食べる。いつものてっさとの違いを考えることで、自然とその料理の由来を考えられた。
お酒も、「河内ワイナリー」や「カタシモワイナリー」といった大阪のワイナリーを揃えていて、たこ焼きに合うタコシャンというデラウェアを使ったスパークリングワインは初めて知った。大阪はデラウェアの生産全国第3位だとか。地元のことでも知らないことってたくさんあると気づかされる。
ただ、「ここでの食事はあくまでも大阪の食文化に気付くきっかけにして欲しい」とサービスを担当してくれた芹澤さんは言う。
「テーマである“大阪の食の本質”を知っていただくためには、たとえば2泊3日の滞在で、1日目はコースで大阪の食文化に触れ、2日目の夜はご近所の店で地元の料理を楽しむという過ごし方が理想です」
奥入瀬渓流ホテルのレストラン「ソノール」で本格フレンチに携わってきた芹澤さんがそこまで言い切るところに、このホテルが街を理解しようとする本気度を感じた。そして、それは朝食でも別の形で感じさせられた。
関西のフーテン作家、中島らものコピーに「B級はエイキューだ」というのがある。朝食の和洋ビュッフェで並んだ木津市場の食材を使った数々のお惣菜の近くで異彩を放つねぎ焼きときつねうどんを見たとき、このコピーを思い出した。ディナーで食べたフレンチアレンジの割鮮と、出汁でリンクしている。削りたての鰹節と甘いお揚げが出汁と絶妙にマッチした極上のきつねうどん。そこにはB級への真剣な眼差しがあった。
隣の席に座った大阪のおばちゃんの会話に耳をすますと
「タコメシあるで!」
「ほんまや。でもきつねうどん先に食べな」
「あかん、お盆に乗りきらへんわ。一回食べてしまおか」
「うどん、ええ出汁出てるわ~」
うん、ややこしいこと言わんと楽しんで食べればいいんやな。
窓の外には光る通天閣
約60平米の「いどばたスイート」
分散型ホテルにおいて部屋での滞在は、どうやって街で遊ぼうかという計画を立てたり、遊んだあとに振り返る基地でもある。最大6名まで泊まれる「いどばたスイート」には、大阪の代表的な観光スポットが壁に描かれた「OSAKAボード」があり、常に街が身近に感じられる仕掛けが施されている。
今回宿泊したコーナーツインは通天閣を正面に望み、寝る前には光る通天閣を眺めながら昼に歩いた新世界のことを思い出していた。外装膜は視界のじゃまにならずにむしろ部屋に奥行きを与えているように感じた。
「湯屋」で感じる大阪のおふろやさん文化
みやぐりんに併設されている大浴場、「湯屋」。天井に空いた吹き抜けの天窓を通して、かつて大阪で地域コミュニティとして機能していたおふろやさん文化に思いを馳せる。おふろやさんといえば、通天閣の横にある「スパワールド」は世界のお風呂文化が味わえるんだっけ......とあまり思考が巡らない頭でぼんやりと考えていた。
お風呂あがりに脱衣所に置いてあったサービスの「551のアイスキャンデー(あずき味)」をみやぐりんで食べる。
OMO7大阪 by 星野リゾート
住所/大阪府大阪市浪速区恵美須西3丁目16-30
アクセス/JR新今宮駅東出口、南海電鉄新今宮駅北出口より各徒歩1分