【料理開拓人・堀田裕介の食材旅】幻のオレンジを求めて淡路島へ
日本各地を巡り、その土地ならではの食材で料理する料理開拓人の堀田裕介さん。今が旬の淡路島産「鳴門オレンジ」を求めて、兵庫県の森果樹園を訪ねます。料理にぴったりだというオレンジを使ったマーマレード、さらにはマーマレードを使ったスぺアリブの作り方も教えてもらいました。
文・写真/堀田裕介(料理開拓人)
目次
オノコロ島の逸話が残る場所、淡路島へ
淡路島へ訪れるのは、もうかれこれ何回目だろうか。この島では数えきれないほどの時間を過ごし、素晴らしい出会いの機会に恵まれた。
大阪湾に浮かぶ淡路島は近畿地方の兵庫県に属し、人口は約13万人。瀬戸内海の島では最大の面積を誇る。関西に住む人にとっては観光の島として馴染みの深い場所だが、まだまだ全国的には知名度は低い。しかしこの島には幾つもの逸話がある。古事記の日本神話に出てくる「国生み」の舞台なのだ。神々が初めて作ったオノコロ島、つまりここは日本のはじまりの場所とされている。
しかし実際に訪れてみると、そんな神聖な場所なんて事はすっかり忘れるほど、のどかで開放的で、とても人懐っこい島の人々が元気に迎えてくれる。淡路島はいつも変わらず誰にでもオープンなのだ。
訪ねたのは、生まれ変わる果樹園「森果樹園×ツギキ」
今回の旅の目的である淡路島原産の幻の柑橘「鳴門オレンジ」を求めて、明石海峡大橋を渡り「森果樹園×ツギキ」を運営する森御夫妻を訪ねた。ご主人の森さんはグラフィックデザイナー、奥さんのあきさんは建築士の顔を持つ現代版の兼業農家だ。御夫妻とはかれこれ10年以上の付き合いだが、森さんが7年前におじいちゃんの畑を継ぎ、あきさんが森家に嫁ぎ「森果樹園×ツギキ」という屋号に生まれ変わった。今では農産物の生産、商品企画、デザイン、販売、パーラーの運営までを手がけている。柑橘類の栽培では接木(つぎき)という手法を用いる事が多い。病気に強い根っこの品種と、たくさん実を付ける品種を接木していいとこ取りをする。
商品パッケージのデザインは森さんが手掛け、パーラーの設計をあきさんが担当する、まさに屋号通りの森夫妻の働き方のカタチそのものだった。
◆森果樹園×ツギキ
住所:兵庫県洲本市五色町鮎原西368
電話番号:0799-32-0909
HP:http://mori-kajuen.jp/
※営業時間等は公式サイトをご確認ください
兵庫県産の“鳴門”オレンジ。独特の風味と強い香りは料理にぴったり
さて、話しを鳴門オレンジに戻そう、なぜ兵庫県淡路島産の柑橘なのに徳島県鳴門の名前が付いているのかと疑問に思うところがあったので尋ねてみると、かつて淡路島が徳島藩だった頃に遡る。徳島の鳴門海峡付近で採れるおいしい柑橘類があると、当時のお殿さまが聞きつけ「鳴門みかん」と名付けたのが始まりだそうだ。その後、昭和に入ってから「鳴門オレンジ」へと名を変え、全国区の知名度へと成長した。当時は銀座の百貨店で鳴門オレンジのジュースを求めて並ぶほど人気の果物だったという。グレープフルーツがまだ日本にない時代は苦味と酸味の強い柑橘類はとても希少価値が高かったのだ。独特の風味と爽やかで強い香りが特徴的な鳴門オレンジは、加熱しても香りが飛びにくい性質なので加工や調理にとても適している。今回はこの風味を生かしたマーマレードを作り、そのマーマレードで煮込んだスペアリブ料理を作るつもりだ。
さっそく森さんの畑でたわわに実る鳴門オレンジを収穫させてもらうことにした。温州みかんよりも大きく、夏みかんよりも少し小さくて、片手にちょうど収まる200~300gが食べ頃のサイズだ。ハサミを入れる毎に爽やかな柑橘の香りが漂ってくる。優しいオレンジ色に包まれながら、とにかく夢中で収穫した。あっという間に籠の中がいっぱいになった。そろそろ調理を始めよう。
皮も実も種も使ってつくる! マーマレードで煮込むスペアリブ
まずはマーマレードの下処理から。
よく水洗いして、包丁で丁寧に皮を剥き、内側の白いワタの部分はできるだけこそぎ落とす。ワタが残るとエグみと苦味になるので慎重に行う。綺麗なオレンジになった皮をすこし厚めの千切りにして、お湯で3回茹でこぼしたら水に浸けて半日寝かす。これで下処理は完了だ。
実の部分は小房に分け、種を取り出したら三等分にカットする。
種は捨てずにお茶パックへと入れる。ここへ10粒のブラックペッパーを忍ばせると格段に風味が良くなる。なによりスペアリブとの相性は抜群だ。
鍋に砂糖と水を入れ、水気を切った皮、種とブラックペッパー、グローブ、シナモンも一緒に鍋でコトコトと煮詰めていく。砂糖は3回に分けると艶が出て仕上がりも綺麗になるので一度に入れないように気をつける。アクを取りながら1時間程煮込んだらマーマレードは完成だ。
いよいよスペアリブの調理に取り掛かかっていく。
生姜を入れて40分ほどスペアリブを下茹でする。その間に鳴門オレンジの果汁を搾る。淡路島の温暖な気候で育った果実にはたっぷりとジュースが蓄えられている。瑞々しい断面から漂う爽やかで芳醇な香りはこの料理を楽しむ醍醐味とも言えよう。おいしいものは往々にして手間ひまがかかるものだ。採れたての果実を農園で搾る。それだけでも心が躍る。
いくつかの調味料とスパイス、果汁を鍋に入れ、ここにマーマレードも入れておこう。一煮立ちさせたら火を止めて、下茹でしたスペアリブの水気を切って鍋へ投入する。ここまできたらもう完成は目の前だ。
水溶き片栗粉で漬けタレにとろみをつけてスペアリブに絡ませながら炭火で炙る。青空とオレンジのドットの隙間に美味しい煙が立ち登る。農園の真ん中にテーブルと椅子を並べたら特別なレストランの開店だ。
◆材料
<鳴門オレンジのマーマレード>
鳴門オレンジ・・・・・・6個
グラニュー糖・・・・・・500g
水・・・・・・1.6ℓ
クローブ・・・・・・10本
シナモン・・・・・・5本
ブラックペッパー・・・・・・小さじ1
<スペアリブ>
鳴門オレンジの果汁・・・・・・350cc
鳴門オレンジのマーマレード・・・・・・150g
生姜・・・・・・1かけ
水溶き片栗粉 ・・・・・・大さじ2
(調味料・スパイス)
醤油・・・・・・250cc
ニンニク・・・・・・10g
蜂蜜・・・・・・20g
八角・・・・・・2個
シナモン ・・・・・・2~3本
おわりに
淡路島なのに「鳴門」の名がつく幻のオレンジ。「森果樹園×ツギキ」の春のオープンはまもなく終わってしまうが、島内では鳴門オレンジを使った商品やメニューをいただくことができる。淡路島を訪れたら、かつてお殿様も愛したというこの鳴門オレンジをぜひ味わってみてほしい。
堀田裕介
“食べることは生きること 生きることは暮らすこと”をテーマに、自ら生産者の元へ赴き、寄り添いながら食の本質を生活者へ届ける料理開拓人。飲食店舗プロデュースや自社の飲食店経営を手がけながら、食と音を掛け合わせ、食べることへの楽しさに向き合うライブパフォーマンスイベント「EATBEAT!」など多岐にわたって活動中。Youtubeにて「森果樹園×ツギキ」への訪問の様子や、マーマレード・スペアリブの詳細レシピも公開している。