【川瀬良子の農業旅】園主・加藤博久さんが育てる“東京のいちご畑”で贅沢5種を食べ比べ!
こんにちは! 農業旅・アンバサダーの川瀬良子です。今回は、縁あって直売所のオープンをお手伝いさせてもらってから、何度も通っている東京都練馬区の「加藤農園」をご紹介します。石神井公園駅から徒歩約20分というアクセスのよさにも関わらず、観光農園ではない、栽培用のハウスでいちご狩りができるのが最大の特長! 園主の加藤さんによる栽培のこだわりを教えてもらいつつ、旬のいちごをたっぷり味わってきました。
文/川瀬良子
目次
“東京でいちご”という付加価値を求め、周囲に支えられながらオープン
東京都練馬区にある東京のいちご畑「加藤農園」は、練馬区で代々続く農家です。園主の加藤博久(かとうひろひさ)さんに何代目ですか? とお聞きすると「十何代目じゃないですかね。歴史がありすぎてわかりません(笑)」とのこと。
私が知り合ったのは2016年。ご両親から引き継いだ農園で、加藤さんがいちごの栽培をスタートしたシーズンでした。共通の知り合いだった園芸家の岡井路子先生に「練馬にあるいちご農家さんで、お手伝いすることがいっぱいあるから来て」と誘われたことがきっかけでした。「東京でいちご!?」と、頭がハテナでいっぱいになったことをよく覚えています。
そのうち、加藤さんほぼお一人で農園の管理をしていたので、人手が必要になったときに岡井さんと手伝いに行くようになりました。いちごの苗の手入れに実の収穫、同時期に育てていたオリーブの剪定など。2018年に直売所をオープンすることになったときは、いちごを並べるテーブルやお客様が座る椅子をペンキで塗るなど、DIYのお手伝いもしました。
お父様が病気になったことをきっかけに農家を受け継いだ加藤さん。やるからには“付加価値の付いた野菜”を作ってみたい、と試行錯誤する中で、東京では珍しいいちごに絞ったそうです。練馬の農家の先輩に、さまざまないちご農家への見学に連れていってもらうなかで、埼玉県深谷市のいちご農家・高荷(たかに)さんに出会います。どんなに忙しくても笑顔で対応し、経営から栽培まで、隠さず全てを教えてくれる高荷さんに魅了され「高荷さんの様ないちご農家になりたい!」と決心。「高荷さんに出会っていなかったら間違いなく農業はやっていないですね」と言うほど。東京という土地柄、知見を得るのも大変だった中での出会いが、今のいちご栽培につながっています。
そんな苦労が実り、2018年からスタートした加藤農園のいちごの直売は「東京で採れたてのいちごが食べられる」と、あっという間に大人気に。都内のマルシェなどにも出店していました。お客様の反応を目の前で見て、人気の品種などニーズがわかってきたことから、栽培面積を13アールから27アールと倍以上に増やし、今年2022年から本格的にいちご狩りをスタートしました。
※1アールは1辺が10メートルの正方形の面積
いよいよいちご狩りを体験! 贅沢に5品種を食べ比べ
というわけで、春らしい快晴が広がる4月に行ってきました! 大きなハウスに入る手前の加藤農園の門の辺りからふわりといちごの香りが。ハウスの扉を開けると空気がピンク色に見えるぐらい、いちごの甘~い香りに包まれました! いやぁ~いい香り。
足元は土ではなくシートが敷いてあり、下から約1メートルの高さに実がなる高設栽培という方法なので、しゃがまず立ったまま収穫できます。
まずはハウス内を歩いていちごを観察。サクランボのように2つ可愛く並んでいるいちごや、真っ赤で大きないちご。見ているだけも癒されるファンタジーな世界! 写真をたくさん撮っちゃいました。驚いたのが、それぞれの列の入り口に品種名のシールが貼ってあるんです。「今年は恋みのり、やよいひめ、紅ほっぺ、おいCベリー、よつぼし、と5品種あるのでぜひ食べ比べしてみてください」と加藤さん。そんな楽しみ方があるなんて! せっかくなのでおいしいいちごの選び方を教えていただきました。
ポイントは、ヘタが反り返っていて、ヘタのすぐ下まで真っ赤なこと(写真1枚目)。「いちご狩りならではなんですが、実はいびつな形のいちごがめちゃくちゃ甘くておいしいんですよ」(写真2枚目)。理由は……調べてもわからないんだそうです! 農家さんならではのとっておきの情報ですよね。
このポイントを意識して、いざいちご狩り開始! いちご自体を傷つけないよう、収穫はハサミで。いちご本来の甘みを楽しむため、練乳などは使わずにいただきます。結論から言いますと、選んだものすべておいしかったです(笑)。東京で完熟いちごが食べられるなんて、感動で震えながら小躍りしちゃいました!
食べ比べも楽しい~。食感がしっかりしているもの、香りが濃いもの、ほどよい酸味があるもの、それぞれ特徴がはっきりわかりました。そして、いびつな形のいちごを見つけるたびに食べてみたのですが……確かに、あまぁぁぁい! 不思議です。自ら育てている農家さんがいるからこその体験をすることができました。
「コロナの影響でなかなか遠出できなかったこともあってか、いちご狩りをスタートしたばかりなのにリピーターが多くて嬉しいです。直売のいちごは、お土産として喜ばれるのはもちろんですが“謝罪するのに持っていったら、相手がすぐに許してくれた”なんて話もありました。嬉しかったですね。珍しさから、わざわざ栃木のいちご農家さんが来ることもありますよ」。
いちごは、実のなる期間が長ければ長いほど甘くておいしくなるのだそう。味のために低い温度でじっくり育てたい一方で、いちご狩りのために赤い実をたくさんつくることも必要とあって、管理の難しさも教えてくれました。
おいしいいちごは、農家と日本の農業の努力があってこそ!
「特別にここの列、お見せしますよ。」と案内して下さったいちごの苗には「実験中」と書かれた旗が。企業と連携して品種の開発を行っているそうです。つくるのが難しい品種もあり、必ずしもすべてがいちご狩りできるようになるわけではないそう。それでも毎年のように新しい品種のいちごが登場して私たちに選ぶ楽しみを与えてくれるのは、このように農家さんや農業に携わるみなさんの努力があるからこそ、なんですね。
「ここに来ないと味わえないいちごがある。そんな場所にしていきたいですね」と優しい笑顔で語る加藤さん。観光体験としていちご狩りを楽しむのはもちろん旅の醍醐味ですが、農家さんの努力に目を向けて、その背景を知ると、1粒のいちごのおいしさがよりいっそう増しますね。
いちご狩りのシーズンは気温によって変わるものの、5月か、場合によっては6月までできるかもしれないとのこと。駆け込みの体験をするのはもちろん、来年はまたどんないちごに出会えるのか、ワクワクしながら待つのもおすすめです。
◆加藤農園
HP:https://amadori-ichigo.com/
住所:東京都練馬区三原台3丁目7 ビニールハウス
電話:080-4883-0415
営業時間:12月~5月11:00~16:00
※いちご狩りは予約が必要な場合がありますのでWEBサイトをご確認ください
定休日:不定休