2025/06/30
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今回訪れた町家カフェ「ろじうさぎ」があるのは、京都の五花街(ごかがい)のひとつ、宮川町。その名のとおり、細い路地に佇む町家を改装した建物は、京都ならではの風情をたっぷり感じさせてくれます。常連の方によると、朝食や昼食がおいしいと評判の人気カフェだそう。でもここはそれだけでありません。舞妓さんとの触れあいを体験できるイベントが毎月のように企画・開催されています。今回はそのイベントのひとつ「舞妓さんを愛でる会」に参加してきました。
ふく琴さん
「舞妓さんを愛でる会」は、舞妓さんを囲んでおしゃべりをしたり、舞を見せていただいたりしながら過ごす約2時間半のイベントです。参加者の人数はその時々によって前後するそうですが(定員は8名)、今回の参加者は私を含め4名。少人数ならではの、落ち着いた雰囲気の会になりました。この日来てくれたのは、今年2月に「店出し」されたばかり舞妓、ふく琴さん。「店出し」とは、仕込みさんと呼ばれる修行期間を経て、正式に舞妓デビューすることを指します。現在16歳のふく琴さんは、宮川町で一番の新人舞妓さんです。はんなりとした雰囲気の中に見え隠れする初々しさがとても印象的でした。
宮川町歌舞練場はお店から歩いてすぐ
開始時刻になると、「新しくなった歌舞練場を見に行きましょう」とのことで、ふく琴さん含めた一行で向かいました。
宮川町歌舞練場は、2022年から建替え工事が進められており、今年3月に竣工。ちょうど私が訪れた日の一週間前に、関係者による開場式があったばかりだそう。建築家・隈研吾さんが監修した建物は、周囲の風情あるまち並みと美しく調和した外観が印象的です。今年11月にこけら落としの公演が予定されているとのこと。真新しい歌舞練場を背景に、ふく琴さんをモデルに写真を撮らせてもらったり、2ショットをお願いしたりと、会は和やかにはじまりました。
歌舞練場の前で記念撮影を楽しんだあとは、お店へと戻ります。店内は靴をぬいであがるスタイルで、こじんまりとした空間。昔ながらの京都の町家の趣をそのまま残しており、ほっとする雰囲気です。奥に進むと、町家ならではの「坪庭」(中庭)があり、ここでも撮影タイムに。着物姿の参加者の方が、自撮りでふく琴さんと2ショットを撮っている姿が、なんとも微笑ましくてかわいい! 「坪庭」の一角に設けられていた、紫陽花をあしらった花手水が、さりげなくこの季節ならではの風情を感じさせてくれて、素敵でした。
次は2階のお部屋に上がり、お茶をいただきながら、ふく琴さんを囲んでのおしゃべりタイムです。店主さんが、ふく琴さんと参加者双方に気配りをしつつ、場の雰囲気を上手に盛り上げてくださるので、自然と和やかな空気が広がっていきます。
ふく琴さんは、参加者からの質問にひとつひとつ丁寧に耳を傾けてくれます。その都度返ってくる上品でやわらかな京言葉が、なんとも心地よく、話の内容よりも、ふく琴さんの声の響きに、思わず聞き惚れてしまいました。
皆でじゃんけんをしている間もふく琴さんからは常に場を和ませる心配りが感じられる
数種類のケーキの中から、じゃんけんで好きなものを選ぶことになったのですが、私は運悪く最下位に。すると、ふく琴さんが自分の番で迷いながら、ふっと私の方を見て、「おねえさんは、どれがお好きどす? 」と、さりげなく声をかけてくれました。いや、もうそのひと言のなんと心地よいこと……。京言葉というのは、言葉の奥にある相手への思いやりや気遣いがあってこそ、本当の美しさが感じられる言葉なんだと気づかされました。はじめて“生きた京言葉”に触れた気がします。
ケーキを食べ終わり、おしゃべりが一段落した頃、次はサイン会のような時間がはじまります。ふく琴さんは、色紙や手帳など、希望する用紙にご自身の千社札(舞妓さんや芸妓さんが使う名刺のような札)を貼り、サインと一言メッセージを、ひとりひとりに書いてくれます。
ふく琴さんのサインと千社札
参加者の中には、すでにたくさんの千社札が貼られた舞妓さんのカレンダーを持参し、そこに書いてもらう方も。私はあいにく適当なものを持っていなかったので、店内で販売されているはがきを購入し、それに一言書いていただくことに。書き終えると、ふく琴さんは「おおきにどす〜」と優しい笑顔で、はがきと千社札を手渡してくれました。ちなみに、舞妓さんからいただく千社札は「お金が舞い込む(舞妓む)」とも言われていて、お財布に入れておくと縁起がいいそうですよ。
最後に、ふく琴さんによる舞の披露です。ゆったりした所作や目線、扇子の扱いなどのひとつひとつがとても美しく、思わず見入ってしまいます。
舞が終わったあとは、三度目の写真撮影の時間に。ここでもまた、一緒に写真を撮ってもらえました。写真のふく琴さんが手を隠しているのにお気づきでしょうか。舞妓さんや芸妓さんの写真では、こうやって手を隠して写っているものをよく見かけます。これは白くお化粧をした顔や首と、手の色が違うので、手が目立ちすぎないように隠しているのだとか。日々「見られること」を意識している、舞妓さんならではの美意識がこんなところにも表れるんですね。
美しい細工の「ぽっちり(帯留め)」のお話など、和やかな雰囲気のまま会話を楽しんでいるうちに、あっという間に終了時刻に。ふく琴さんは、この後すぐお得意様に食事に連れていってもらう「ごはんたべ」に向かうのだとか。私たちは非日常のひとときの余韻に浸りながら、お店をあとにしました。
舞妓さんの言葉づかいや所作、舞などのすべてに、長く受け継がれてきた京都の文化が息づいています。今回の体験を通じて、改めて、その奥深さと美しさに触れることができ、本当に貴重な体験となりました。
舞妓さんや芸妓さんを呼ぶお座敷遊びは「一見さんお断り」と言われる、敷居の高い世界。これだけゆっくりと舞妓さんとお話したり、写真を撮ったり、直接触れあえる機会は、私自身を含め、一般の観光客にはなかなか得がたいものだと思います。終始、店主さんの舞妓さんへの愛情と、参加者への心配りが細部にまで行き届いているのが感じられる温かいイベントでした。
イベントの和やかな雰囲気は店主さんの心配りの賜
「ろじうさぎ」では、「舞妓さんを愛でる会」だけでなく、舞妓さんと一緒にお出かけができるイベントなど、さまざまなふれあいの機会が企画・開催されています。いずれも不定期開催・予約制となっていますので、事前に公式ホームページで開催日や内容を確認のうえ、必ずご予約ください。
ぜひ、舞妓さんとのふれあいを通して、京言葉や仕草に込められた奥ゆかしさと、京都に息づく伝統の美しさを体感してみてくださいね。
参考になりましたか? 旅行・おでかけの際に活用してみてください。
記事企画・監修:レポーター 旅色LIKESメンバー
ライター:京都といえば、思い浮かぶもののひとつが「舞妓さん」や「芸妓さん」。京都に何度訪れていても、その優雅な姿に憧れるだけで、実際にお話しする機会なんて、なかなかあるものではありませんよね。そんな“非日常”を気軽に体験できるというカフェを今回訪れてきました。なんとここでは、毎月本物の舞妓さんとおしゃべりができる特別なイベントが開かれているんです。
ろじうさぎ