日暮里駅からすこし歩いた住宅街のなかに「ひぐらしベーカリー」というパン屋はある。外観はおしゃれなログハウス風で、木のぬくもりが感じられる作りになっている。店内にはカレーパンやデニッシュ、ドーナツなどのたくさんの種類のパンが並べられていた。カフェスペースもあり、コーヒーやオレンジジュースといった飲みものを頼んでゆっくりと休むこともできる。

 店の隣には「パン屋の本屋」という書店が併設されていて、中庭を挟んで渡り廊下でつながっている。入り口のガラスには「ベビーカーOK」の文字が書かれていて、子ども連れにも入りやすいよう配慮されていた。棚には絵本や小説、実用書のほかにパンに関する書籍のコーナーもある。ここでなにか本を買ったあとにコーヒーを飲みながら読書してもよさそうだ。僕はわりにそういう時間が好きなのだけれど、あなたはどうだろう?

 六月のある日、この店をたずねて陳列された大量のパンを眺めていたら、動物の顔をかたどったパンを見つけた。ポップには「えほんパン」と書かれている。なるほど、絵本に出てくるような動物のキャラクターというわけだ。チョコレート味とカスタード味という二種類があったので、僕はどちらとも買ってみることにした。

 レジでアイスコーヒーも注文すると、中庭に面したテラス席に座った。視線の先に本屋がくることになる。

 さっそくえほんパンをほおばると、中につまったクリームが口のなかにこぼれてきた。これは子どもが喜びそうだ。動物の顔を食べるのは、ちょっと複雑な気持ちにもなるけれど。口のなかが甘くなったあとは、アイスコーヒーを流し込む。そして、中庭をぼーっと見つめる。こうやってぼんやりと過ごすのも悪くない。ふと気づくと足元ですずめが歩き回っていたりして、「悪いけど、あげることはできないよ」と思いながらパンをかじるわけです。やれやれ。

菊池 良 Kikuchi Ryoライター。学生時代に公開したWEBサイト「世界一即戦力な男」が話題となり書籍化、WEBドラマ化される。その後、WEBメディアの制作会社や運営会社勤務を経てフリーに。主な著書『世界一即戦力な男』(フォレスト出版)、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)などがある。最新刊『芥川賞ぜんぶ読む』(宝島社)が発売中。

ひぐらしベーカリー

  • 東京都荒川区西日暮里2-6-7
  • 03-6806-5551
  • 8:00~18:00
  • 月曜日

 

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