合格率が5%程度という「日本ビール検定1級(通称:びあけん)」を所持する
“ビールおねえさん”こと古賀麻里沙さん。
自らオリジナルビールを開発するほどビール愛に溢れる古賀さんは、
ビールを求めて旅に出ることもしばしば。
今回はビール好きなら欠かせない地・大阪に向かいます。
旅色アンバサダーとしても毎月連載記事を執筆している古賀さんの
「ビール旅」特別版となっています。

写真/橋本千尋 文/古賀麻里沙

ビール豆知識① 国産ビールの起源は大阪

日本人による手で初めてビール醸造が行われた場所ってどこだかご存知ですか? 実は、始まりは大阪の「渋谷麦酒」だといわれています。1872年に渋谷庄三郎氏という人物が醸造所を設け、生産と販売を開始。年間約32~45キロリットルを製造し、9年ほど続きました。一説によると、このときのビールづくりの技術が生かされて国内の醸造が本格化し、今日に繋がっているんだとか。今回の旅ではビールの歴史に触れながら、現代のおいしいビールを探すことにいたしましょう。

「国産ビール発祥の地」の石碑

「国産ビール発祥の地」の石碑
しっかり自撮りもしました。テンション上がる!
しっかり自撮りもしました。テンション上がる!

びあけん所持者は誰もが知る「国産ビール発祥の地」の石碑です。写真でしか見たことがなかった石碑、やっと生で見ることができました……(興奮)! 当時のラベル、犬が旗をくわえたマークもしっかりと刻まれていますよ。大阪の歓楽街、北新地の一角にドンッ。この辺りで明治時代にビールの醸造が行われていたんですね。おかげで今おいしい国産ビールを飲むことができていると思うと頭が上がりません。ありがとう、ありがとう、庄三郎さん! 車の通りが多い場所なので、見に行くときは注意してくださいね。

住所/大阪府大阪市北区堂島1丁目4-30

至高のビール旅1 渋谷庄三郎のバトンを受け取り、新たに挑戦する醸造所 大阪渋谷麦酒

至高のビール旅1 渋谷庄三郎のバトンを受け取り、新たに挑戦する醸造所 大阪渋谷麦酒

渋谷麦酒が約140年の時を超えて藤井寺市に復活したとのことで、醸造と販売を行う「大阪渋谷麦酒」にやってきました。醸造所の立ち上げから仕込み、販売までのすべてをひとりでこなしているのが、渋谷家9代目の妻である澁谷香名さん。香名さんは、26年前の結婚式の時に相手方の親戚の人たちが話しているのを聞いて、初めて渋谷麦酒の存在を知ったのだそう。

ポリ袋を使ってビールを発酵させる石見式醸造法
ポリ袋を使ってビールを発酵させる石見式醸造法
奥には貯蔵のタンクも
奥には貯蔵のタンクも

ちょうど発酵途中のビールがあったので、覗かせてもらいましたよ。あれ? 見たことあるのと違う。タンクではなくポリ袋を使ってビールを発酵させています。これは「石見式醸造法」といって、通常よりも低コストでビールをつくることが出来るので、小規模のクラフトビールづくりに適しているんだそう。なるほど、これだと場所も取らないしお手入れも楽ですね。

こちらでつくっている代表的なビールは「河内乃えーる」。ピルスナー、ヴァイツェン、ペールエール、スタウトの4種で、各550円です。渋谷麦酒創業当時のラベルから着想を得ていて、それぞれのラベルは可愛らしいワンちゃんのデザインが入っています。今回は特別に、店頭でスタウトを試飲させてもらいました。

香ばしいコーヒーのような香りが鼻腔をくすぐります。ロースト麦芽のコクがたっぷり感じられるけど、重たくなくて飲みやすい一杯。原材料を見てみると、すべてのビールにみかんピールが入っているのがわかります。地元産の間引いた青みかんで香り付けを行っているんだそう。だからスタウトでもすっきりとした飲みやすさがあるのかもしれません。

このスタウトのコラボビールもあるんですが、それがこちら。藤井寺のご当地クラフトコーラ「フジコーラ」とスタウトを一緒に発酵させたクラフトビールです。名前は「黒ガフ」。ガフはシャンディガフのガフですね。原料に生姜が使われていて、コーラのような香りがするスパイシーな一品。なんといっても、このラベルが可愛すぎて! これは味を知らなくても思わずジャケ買いしちゃいます。

大阪渋谷麦酒

住所/大阪府大阪市藤井寺市岡1-2-6
電話/080-3832-2083
営業時間/11:00~18:00
定休日/月曜日
アクセス/近鉄南大阪線藤井寺駅から徒歩約8分

至高のビール旅2 大阪渋谷麦酒を味わうためやってきました 谷酒店

至高のビール旅2 大阪渋谷麦酒を味わうためやってきました 谷酒店
商品の説明が丁寧に手書きされています
商品の説明が丁寧に手書きされています

渋谷麦酒のお話を聞いて、これはもう存分に飲みたい……! とやってきたのは、親子で経営されている「谷酒店」。全国の酒蔵に足を運び直接仕入れているというこだわりようで、渋谷麦酒はもちろん、数えきれないほどの種類のお酒を取り扱っています。杜氏さんの顔やつくっている背景が見えるお酒がコンセプトなのだそう。一つひとつに手書きのポップが貼られているところにも深い愛情を感じました。

酒店に隣接して「スタンド谷酒店」という立ち飲みのお店があり、ここではお母さん手作りのおいしい料理とお酒を楽しむことができます。常連さんが飽きないための工夫として、料理は全て日替わりで、季節に合わせてメニューを考えているとのこと。お店に来てくれる方には野菜を摂ってほしいという想いもあり、野菜をバランスよく取り入れたお惣菜が並びます。おでんと湯どうふは通年のメニューとなっています。

手書きのメニュー表

本日は、渋谷ビールのピルスナーと豚肉の甘酢和えを注文しました。こっくりと甘い豚肉が口の中でほぐれ、旨味がじゅわっと広がります。たっぷり入ったニンニクの芽と玉ねぎの優しい甘みがたまりません。これでなんとお値段250円!? 信じられません。すかさずビールを流し込むと……くぅー、うまい! みかんピールの爽やかな風味が駆け抜け、すっきりとした喉越しで一気に潤いました。

ビール豆知識② 立ち飲みの歴史

サッと食べられるおつまみとクイッと飲めるビール、立ち飲みのお店っていいですよねぇ。カウンター越しにお店の人とお話ししたり、隣のお客さんと初めましてで乾杯したり、そんな雰囲気がとても好きです。立ち飲みの起源は江戸時代まで遡ります。発祥は東京の神田にあったお店で、味噌を塗って焼いた豆腐のおつまみと枡酒を提供したのが始まりだといわれています。その後も形を変えながら立ち飲み文化は残っていったのですが、1960年頃をピークにお店の数は一時期、減少の一途を辿ります。しかし近年再び昭和レトロ文化の流行や、写真映えする立ち飲み店の出現の影響もあり、お店の数も利用者も増えているようです。こんな楽しい文化はずっと残り続けてほしい……と心から思うばかりです。ちなみに11月11日は立ち飲みの日。1が並んでいるところが立ち飲みをしている姿に見えるから制定されたんだとか。

それにしても、本当に雰囲気のいいお店です。年季の入ったアサヒビールの看板もかっこよくて、いい味出しています。谷酒店はこの場所で昭和34年から続いていて、お客さんのなかには学生時代に父親に連れて来られ、いまだに通い続けているという常連さんもいらっしゃるみたいですよ。「ひとりでふらっと来て、自分のペースで飲めて、毎日通えるお店でありたい」とお店の想いを教えてもらいました。いいな~こんな雰囲気のいい場所でおいしいお酒とおいしいおつまみと共に過ごせるなんて……常連さんたちが羨ましい。

谷酒店

住所/大阪府藤井寺市藤井寺1-2-24
電話/072-955-0123
営業時間/11:00~20:30※スタンドは17:00~20:30
定休日/日~月曜日、祝日
アクセス/近鉄南大阪線藤井寺駅から徒歩約3分

日本のビール発祥の地から始まった今回のビール旅。明治時代、ビールづくりの基礎を築いた人たちに思いを馳せて、いつも以上にビールを大事に味わう旅になりました。しかも今回の旅では渋谷麦酒の歴史について詳しく知っている、岩根さんという方にもお話を伺うことができたのですが、「当時の資料はほとんど残っていなくて、見つかっているのは犬のマークのラベルと200坪ほどあった醸造所の図面だけ。この頃はビールはまだめずらしくて、日本人はよっぽど物好きでもない限り口にしなかったですよ。だから外国人居留地向けの販売をしていたんですよ」と教えてもらいました。今では“とりあえずビール”が全国の居酒屋の共通語になるくらいにすっかり浸透しているけど、当時はそのような認識だったということを知り、ビール好きの私はいい時代に生まれたなぁ……と感謝することしかできません。渋谷麦酒は、もちろん当時のレシピも一切残っていなくて、大阪渋谷麦酒の澁谷香名さんは、いろんな資料を読んで「おそらく当時はこうつくっていただろう」という考察のもと日々ビールづくりに励んでいるそうです。そんな日本のビールの始まりに少しだけ触れられて、ビール好きの心がものすごくくすぐられました! そしてビール愛がもっと深くなる旅となりました。

石碑と乾杯する古賀さん。「ここ来てみたかったんですよ! テンション上がる~」と、満面の笑み。喜びが伝わってくるこの写真が、今回の旅のベストショットです!

古賀麻里沙 1987年生まれ、福岡県出身。キャスター、タレント。食べることと飲むことが大好きで、日々更新しているインスタグラムとYouTubeではさまざまなビールとおつまみのペアリングを発信している。日本ビール検定1級を所持し、HOPPIN’ GARAGE公認の“ビールおねえさん”として活躍中。好きなビアスタイルはIPAで、ビールの輪を広げるため、日々奮闘中。