ホテル評論家・瀧澤信秋のホテルレストラン探訪

日本各地のホテルを知り尽くすグルメな瀧澤さんが、
注目の「ホテルレストラン」を紹介する連載がスタート!
ホテルならではの総合的なサービスとクオリティーで
一線を画す、その魅力をご紹介します。
第1回は、世界クオリティーな夜景と日本ならではの心配りが唯一無二という
ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町のメインダイニングです。

写真/片桐 圭 文/川口裕子

雲上に浮かぶかのようなモダンダイニング WASHOKU 蒼天 SOUTEN ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町

瀧澤’s 取材メモ

料理や空間、眺め、ロケーションはもちろん素晴らしいですが、日本ならではのおもてなしの心配りが随所に感じられて、特別な日の利用にふさわしいでしょう。

和食のダイニングらしからぬモダンさと開放感

「初めて蒼天に足を踏み入れた時『ここは、和食のお店だったかな?』と、戸惑ったことを思い出します」と瀧澤さん。インバウンド需要もあり、和食といえばトラディショナルな日本を前面に押し出す内装が多いなか、「蒼天」の店内はフレンチダイニングのようなモダンな雰囲気です。「ブルーとクリスタルを基調としたインテリアは、旬の素材の鮮度を閉じ込め届けるというイメージを込めた『アイス』がコンセプト。都会のビル群を思わせるスクエアモチーフの内装の向こうに、本物の東京の街並みが広がるのもいいですね」。ホテル全体が浮遊感・浮揚感をテーマにしており、その文脈にレストラン『蒼天』も存在します。瀧澤さんは「座り心地もいい」と椅子に身を委ねて言います。「周辺に高い建物がなく開放感があります。それに、この雰囲気のお店でどんな和食が出るのかな? とワクワクしませんか」

サプライズなおもてなし料理も食べやすさを重視

「味はもちろんですが、注目したいのは料理長・髙橋賢さんのクリエイティビティーです」。最初に運ばれてきた椀物の見た目は、まるでフレンチのスープ。カツオでひいた出汁を注ぐと、皿の中で金箔と柚子が泳ぎ出します。「この演出も髙橋さんの狙い。楽しいですよね」と言ってから、瀧澤さんは早速ひと口。煮凝りのようなものは、科学の技法を取り入れた「分子調理法」で作る“ジェランガム”という具材。その下には酒粕入りの真薯(しんじょ)が隠れています。出汁と一緒に口に運ぶと、お吸い物のやさしく繊細な味が、粕汁のようなしっかりとした強い風味に変わります。「髙橋さんは、“おいしい”の先にあるサプライズなおもてなしを、探究し続けていらっしゃいます。それに手が込んだお料理ながら非常に食べ易い。これも僕が大好きなポイントです」

仕事への誇りが生み出すおもてなし

接客で心掛けていることを、蒼天スーパーバイザーの野口涼介さんに尋ねると「お客様がどのような状況、きっかけでこの会食にいらしたのかを汲み取り、それに沿ったサポートをすること。それから料理には必ず作り手が存在します。食材、お酒、もちろん調理スタッフも含め、多くの作り手の心を引き受けてゲストにお届けするという責任の下、できる限り作り手の思いをお客様に伝えることを使命にしています」とのこと。それを聞いた瀧澤さんは「マニュアルで行うのがサービス。誰かのためにしてあげたいという気持ちから、自然と生まれ出るのがおもてなしですよね。蒼天内にある寿司のカウンターも、通されただけで圧倒される空間ながら、板前さんの方から話しかけてくれて気取ったところが一切ありません。『リラックスして料理を味わって』という心が伝わってきます。このおもてなしが、蒼天で過ごす時間をより素晴らしいものにしてくれているのでしょう」

瀧澤’s 取材メモ

よいサービスを提供してくれたスタッフがいたら、ぜひホテルにアンケートやThanksレターを送りましょう。ホテルはゲストが作るもの。いいホテルには良いゲストが集うのです。それはホテルレストランも然り。ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町は、お客様からの感謝の声が届くと、胸元に輝くバッチの色が変わっていくんですよ。ぜひ注目を。

DATA

WASHOKU 蒼天 SOUTEN (わしょく そうてん)

WASHOKU 蒼天 SOUTEN

迎賓館・赤坂離宮を有し、歴史と緑にあふれた品格漂う街・紀尾井町にあるラグジュアリーホテル「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」の和食のメインダイニング。店内にはダイニングエリアのほか鉄板焼カウンターと寿司カウンター、日本酒を楽しめるSAKEバーなども用意されています。

DATA
住所/東京都千代田区紀尾井町1-2
電話/03-3234-1136(レストラン予約窓口10:00~17:30)
営業時間/水~金曜日17:00~22:00、土曜日11:30~15:00、17:00~22:00、日曜日・祝日11:30~15:00
定休日/月曜日、火曜日

Profile
瀧澤 信秋

瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)

1971年生まれ。ホテル評論家、旅行作家。国内ホテルを対象に、利用者目線やコストパフォーマンスを重視した取材調査、評論、批評を行う。財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボードを務めるほか、多数メディアでも幅広く活躍。著書に『辛口評論家、星野リゾートに泊まってみた』(光文社新書)など。