


『真鶴』
夫が失踪して12年。妻はある日衝動的に列車に乗り、降り立った真鶴(まなづる)で一泊します。そして引き寄せられるように娘を連れて再訪しますが、その後消えた夫の日記を見ると、「真鶴」の文字が……。寄せては返す波のような彼との思い出、思春期の娘、現在の恋人、そして幻の「ついてくる女」……。実在する海の町が現実の場所ではないような雰囲気で描かれ、主人公の心が揺れ動くさまが読みどころです。

682円/文春文庫
『海の見える駅』
タイトルどおり、電車を降りると目の前は海、という駅のガイドブックです。ほぼ空と海しかないため、本書のほとんどは絶景でありながら「行楽地」ではありません。ただ、冬には流氷が見える網走の北浜駅、ドラマやアニメで有名になった江ノ電の鎌倉高校前、東芝の工場の敷地内にあり、一般人は改札から出られないJR鶴見線の海芝浦など、ユニークな場所ぞろい。ここにしかない眺めに会いに行こう!

1,650円/雷鳥社
『横浜カフェ散歩』
異文化の玄関口である港町にはいいカフェが多いと思います。その代表格が横浜。本書は元町、本牧などエリア別になっており、紹介文、写真、そしてオーナーのインタビューで構成されています。セイロンティーに魅せられた元国家公務員ご夫婦の「錫蘭紅茶本舗SINHA」、60年代のアメリカのドライブインをコンセプトにした「CJ CAFE」など、自由かつこだわりを持ったお店ぞろいなのはさすが! 次の休日にぜひ。

1,430円/書肆侃侃房



『グラン・ブルー』
名作ですよね。10代の頃からダイビングを嗜んできたリュック・ベッソン監督による、フリーダイビングにしのぎを削る男たちと、彼らと運命的に出会った女のひと夏の物語。青いキラキラした海ではなく、静寂に包まれる沈黙の海。息がつまるような海の深さを体感できるんです。ちょっと怖いくらいですが、未知なる海の圧倒的な美しさに息を呑みます。海の底へと沈んでいく感覚をはじめて体感できた映画です。一方で、愛らしいイルカたちとまるで家族のように共存し、心を重ね合わせる様子を見ていると、やはりさまざまな理由で海が恋しくなります。ジャン・レノという世界的スターを誕生させた1本です。

『秒速5センチメートル』
美しすぎる恋の記憶は、ある種の呪いに近いものなのかもしれない。3つの物語から構成されるこの映画の第2話「コスモナウト」は、種子島を舞台に、主人公の男性に片思いをした女性視点で進みます。新海誠監督の圧倒的風景美は言うまでもありませんよね。種子島の地平線に続く広大な空と海、行き場のない想いをのせて遥か彼方の宇宙に飛んでいくロケット。これが掛け算された唯一無二の景色にポエティックな言葉が重なり、ある種の精神の旅に出られそうです。種子島へロケットの発射を見に行くことは、私の人生でやりたいこと、ベスト10に入りました。アニメーションの海に惹かれ、聖地巡礼で種子島に訪れる人が増えた作品です。

『プアン/友だちと呼ばせて』
余命宣告を受けた若者が親友と共に巡る甘くて苦い思い出の旅。失恋からの脱却をまばゆい作風で描いたロードムービーの傑作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』などの巨匠ウォン・カーウァイ監督が、プロデュースの立場で携わった旅映画です。死を前に元カノたちに会いに行くのですが、その終着点には隠された意外な事実が待ち受けているんです。カーステレオから流れる懐かしい音楽、魅惑的なタイの都市、色とりどりのカクテルが彩る万華鏡的世界観に引き込まれ、まるで自分のかつての恋路を辿るような気分を味わえます。人生の選択肢を左右するキーポイントとなるシーンでタイの美しい海辺が登場しますよ。
