「あれ食べに行こう」からはじまる旅 タベサキ

福井が生んだ幻の食材 上庄(かみしょう)さといも物語
奥越前と呼ばれる福井県・大野市。この地で栽培されている上庄さといもは、市場にはあまり出回らないため幻の食材とも呼ばれています。肉質の硬さとまろやかな甘みが特徴で、通常のさといもの倍近い高値で取引されているブランドさといもです。そんな上庄さといもの魅力を、物語にのせてひも解きます。

文/上野 郁美.(effect)

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平成29年にはさといも初のGI指定(地理的表示)も。伝統的な生産方法とこの地の気候・風土・土壌などの特性が、品質に結びついていると認められています。

STORY1 上庄さといもと福井県・奥越前

先祖から受け継がれた種芋と豊かな土壌で育まれる上庄さといも

「この地域では平安時代にはすでにさといもが流通していたと言われており、今から600年ほど前の室町時代には伊勢神宮に奉納したとの記録も残っています。寒さ厳しい冬場に食べる主食として重宝されてきたんです」上庄さといも農家である印牧さんがまず話してくれたのは、さといもの長い歴史。「雪が深い大野市では家同士の行き来もなかったため、それぞれの家庭で種芋を保管し、大事に受け継がれてきたそうです」。

その後、昭和47年には良質な種芋だけを選別し、「上庄さといも」のブランドが確立。もちもちした食感、歯ごたえ、味わいは徐々に話題を呼び、有名店と取引されるまでになります。評判を呼ぶほど質の高いさといもが育まれる秘密は、奥越前の土壌にありました。「大野市は1000m級の山々が周りを囲む盆地であり、昼夜の寒暖差が激しいため、さといもにデンプン質がしっかりと蓄積されます。また、山から流れた土の堆積でできた扇状地で、砂質壌土からなる水はけのよいほ場が多く、水にも恵まれています。土壌としてはやせていますが、だからこそ身がしまって、うまみが凝縮するんです」。

お話を聞いた印牧富士夫(かねまきふじお)さん。9代以上続くさといもの農家であり、その味を守るため尽力されている。
しっかりとした身のつき方で煮崩れしにくい上庄さといもは、煮っころがしを始め、煮物に重宝されてきました。

STORY2 上庄さといもの育て方

丁寧な手仕事が守る、唯一無二のさといも

上庄さといもが幻と呼ばれるのは、「連作障害をさけるため一度収穫した畑を5~7年空ける必要があること。さらに栽培に手間がかかることから出荷量を簡単には増やせないため」だと印牧さんは言います。上庄さといも栽培でとくに欠かせないのは、6月から7月に行われる「子芋茎(こずいき)の刈り込み」と呼ばれ、葉茎の横から出る芽を一つ一つ切除する作業と、さといもの株に土を寄せる「土寄せ」作業。そして7月から8月の水管理です。この作業により、大きく丸く、形の整った美味しいさといもが育ちます。この作業と水の管理が十分でないと、形の悪いさといもや長いも、小粒のさといもしか付かない株や青いもの多い株になってしまいます。このような細かな作業を経ることで、上庄さといもの品質は保たれているのです。

シンプルだからこそ素材の良さが光る上庄さといものメニュー

大野の地で食べ継がれてきた、上庄さといもの料理の数々。煮っころがしやのっぺい汁などシンプルなメニューが多いだけに、上庄さといもの質の高さ、味の良さが楽しめる料理ばかりです。「さといもは、料理がしづらいと若い人には敬遠されてしまうことがあるんです。でも食物繊維などの栄養価が高くてカロリーも低い。この食感、粘りは一度体験してみてほしいです」と印牧さん。おすすめの食べ方を聞くと、「おでんやシチュウの具。あとは皮をむいて薄く切ったものを冷凍保存し、味噌汁や汁物として冷凍したまま調理すれば忙しい人でも楽に作れて、おいしいですよ」と教えてくれました。

STORY3 受け継がれる味上庄さといも料理

上庄さといもで煮っころがしを作るときは、薄皮を残すのがポイント。うまみが逃げず、豊かな味わいが楽しめます。
福井の郷土料理であるのっぺい汁。大野では上庄さといもを入れて食べられることが多いそう。
煮崩れしないため、おでんにも最適。出汁を含んだ上庄さといもは絶品。
この地域では、お祭りやお祝い事にさといもを使った「いも赤飯」が食卓に並ぶ家も多い。

福井の伝統と味をここで体験!

大野市内の名物店で食べられる絶品上庄さといも料理

見た目のインパクトも大きい「天空カレーライス」880円。上庄さといも以外にも地元産の新鮮な野菜が使われています。

福井名物の料理の数々が味わえるお店、「平成大野屋 はいから茶屋」。煮っころがしや串揚げなどの上庄さといも料理も提供されているこのお店で、話題を呼んでいるのが「天空カレーライス」。標高249mにそびえ「天空の城」と称される「越前大野城」をイメ―ジしており、上庄さといもをはじめとした野菜がこんもりとトッピングされています。意外な組み合わせに思えるカレーとさといもですが、実は相性抜群。さまざまな料理にあわせられる、上庄さといもの懐の深さを実感できます。

[DATA]
平成大野屋 はいから茶屋
住所/〒912-0081 福井県大野市元町1-2
電話/ 0779-69-9200
営業/ 9:00~18:00(ラストオーダー17:30)ランチタイム 平日11:00~14:00、土・日・祝11:00~15:00
定休/火曜日

上庄さといも料理だけでなく、大野産そば粉を使った手打ちそばやソースカツ丼などもおいしいと話題。
上庄さといもの旬である秋限定で提供されている「里芋のフルコース」3300円。ずらりと並んだ料理のすべてに上庄さといもが使われています。

上庄さといものフルコースを楽しめるのが、「料理茶屋 寿楽山(じゅらくせん)」。その内容は上庄さといもの頭芋(親芋)を使った「頭芋の葛あんかけ」や荒島ポークと上庄さといもの「タジン鍋」、さといものバター醤油焼などです。その特色を生かすため、薄皮をつけたまま調理することにこだわり、上庄さといもの表現の幅を味わうことができるフルコースとなっています。

[DATA]
料理茶屋 寿楽山
住所/〒912-0092 福井県大野市清瀧123-9
電話/0779-66-2455
営業/昼 12:00~/ 夜 17:00~24:00
※要予約

大正の情緒あふれるお店の雰囲気も人気の「寿楽山」。

福井の食を彩る越前漆器の文化

豊かな自然を有し、上庄さといもをはじめ食材の宝庫である福井県ですが、あわせて押さえておきたいのが漆器文化。古墳時代の末期にあたる6世紀に起こったといわれ、長い歴史を誇る越前漆器が発展した土地なのです。そんな越前漆器について知ることができるミュージアム&ショップ「うるしの里会館」内には、実際に越前漆器を使って料理が提供される「喫茶椀椀」があります。特産である薬味「山うに」を使ったランチや御膳料理(要予約)、お清水で淹れたコーヒーなどこの地域のおいしい料理を漆器を使って食べることができるのです。福井に行くのであれば、ぜひこのお店もチェックを!

[DATA]
喫茶椀椀
住所/〒916-1221 福井県鯖江市西袋町40-1-2(うるしの里会館内)
電話/ 0778-65-3456
営業/9:30~16:30
定休/火曜日

越前漆器に盛られた料理の数々。漆器の美しい色合いが、食材を明るく彩ります。
ソフトクリームとコーヒーも漆器にかかればこんな情緒あるたたずまいに。漆器に秘められた力を感じることができる一品。