フィギュアスケートの現役選手時代、旅行に行かれることはあったんですか?
基本的には練習漬けの日々でしたけど、コーチだった山田満知子先生と一緒に1泊2日で温泉旅行に行くことはちょこちょこありました。あとは毎年、先生と家族で沖縄旅行にも行っていましたね。でもオフだからのんびりという感じではなくて、本島にスケートリンクがあったので、そこで練習もしていました(笑)。
選手時代はなかなかゆっくりできないですよね。では引退してからやっと、ゆっくり行けるようになったという感じですか?
そうですね。現役選手時代は遠征に行ったとしても大きなホテルに泊まることが多かったので、引退後はプライベート感のある、小規模なホテルや旅館に行くのがお気に入りです。最近行った旅行で印象に残っているのは、小島瑠璃子さんと行った熱海の「WA亭風こみち」。全8室しかなく、部屋に露天風呂がついている本当に素敵な宿でした。私もこじるりさんも美術館と陶芸が大好きなので、この時はMOA美術館に行ったり、陶芸をしたりもしましたね。せっかちなのでどこに行ってもアクティブに、プランを詰め込んでしまうことが多くて。ノープラン旅はできないタイプです(笑)。
浅田真央さんとスケート靴を持たずに行った、宮古島
引退後に初めて行った旅行はどんなものでしたか?
浅田真央ちゃんと同時期に引退が決まったので、引退を発表する前に一緒に行った5泊6日の沖縄旅行です。現役時代はこんなに長期間旅行に行けることはなかったので、海外もいいかなと思ったのですが、真央ちゃんが「海外は移動時間がもったいないよ!」と言うので、じゃあ沖縄にしようということになり、本島、伊良部島、宮古島に行きました。スケート靴を持たずに行く旅行というのが初めてのことだったので、その開放感をよく覚えています。スケートの話は一切せず(笑)、ただただ旅を楽しみまくりました。
思い出に残っていることはどんなことでしょうか?
伊良部島に宿泊したときに泊まったホテルが高級なところだったので、部屋にプールがついていたんです。でも行ったのが3月ですごく寒かったので、真央ちゃんは残念そうに「無理だよね……」と言っていて。その横で私が無言で水着に着替えだしたら「えー! 佳菜子入るの? じゃあ私も!」と、結局入ることにしました。プールに震えながら入って、温かいお湯を溜めたお風呂に走って、を何度も繰り返しましたね(笑)。あとはとにかく宮古島が素晴らしくて。私は宮古島に恋をしてしまって、それ以来コロナ禍になるまで毎年宮古島に行くようになりました。
ゆったりと流れる時間のなかで、人の優しさや温かさにふれて
恋! どんなところが気に入られたんですか?
ゆったりとした時間の流れと、現地の人との交流です。私はとてもせっかちなので、普段はいつも時間を気にしているのですが、宮古島では時計を気にせず、のんびりと過ごすことができます。それと、宮古島の魅力はなんといっても「人」ですね。真央ちゃんと宮古島に行ったとき「プライベートリゾートホテルRENN」というところに泊まったのですが、そのオーナーのRENさんと仲良くなり、宮古島のいろんな名所を教えてもらいました。そこに行くとまた素敵な人との出会いがあって、数珠つなぎのように人の輪が広がっていったんです。
素敵ですね。現地の方との交流で印象に残っていることはありますか?
RENさんが教えてくれた、みよし屋というマリングッズのレンタルショップとお食事処があるんですけど、そこの名物店主である栄吉(えいきち)さんが、お店に来てくれた観光客や、たまたま知り合った人を集めて夜にガレージでバーベキューをするんです。そこに参加させてもらったのはとても良い思い出ですね。印象的だったのは宮古島に古くから伝わる泡盛の飲み方「オトーリ」を教えてもらったこと。「親」になった人が、目標とか感謝の気持ちとかを話したあとに泡盛を飲み、そのグラスを次の人にどんどんまわして、みんなで泡盛を飲んでいくんです。今のご時世では難しいかもしれないですけど、たまたまその場で出会っただけの人たちが、家族のようになってしまうかけがえのない時間でした。友達と行くのもとても楽しいのですが、宮古島のように地域の人が温かく迎えてくれる場所は一人で行くのもおすすめですよ。そうすると、現地の方とたくさん交流が生まれるので。
撮影/十河英三郎 取材・文/上野郁美(エフェクト) スタイリスト/柳翔吾