小林エリカの旅と創造 吹きあがる泉

小林エリカの旅と創造

#31 吹きあがる泉
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熱い湯が地底から勢いよく吹きあがる。
噴水のように湯柱が立ちあがる。
あたりには煙がたちこめ、飛沫が舞い落ちる。

間欠泉というものをはじめて見たのは、アイスランドのストロックル間欠泉であった。地面のあちこちから煙が立ち昇っている幻想的な景色の中で、時折、天まで水が吹き上がる。
私はこの世にこんな美しい光景があるのかと、感動に打ち震えた。

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火山と温泉の島、アイスランド。
あちこちに温泉と温水プールがあって、私は滞在した一週間あまり、その殆どを水着で過ごした。あたり一面にはルピナスの花が満開で、街のレストランではビョークまで見かけたし、私はたちまちアイスランドの虜になった。

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もう十年以上も前のことになるのだが、そのときに読んだ本のことは今でもよく思い出す。島村英紀著『地震と火山の島国―極北アイスランドで考えたこと』(岩波ジュニア新書)。地震やプレートを研究する地球科学者でもある著者が、調査のため通いつめているアイスランドについて記した本なのだが、私はその本で、アイスランドと日本がひとつの繋がったプレートの端と端にあることをはじめて知った。

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どうやら、私のざっくりとした理解では、アイスランドが揺れれば、日本も揺れる。というわけで、著者は日本の地震を予測するためにアイスランドを調査しているらしい。

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東日本大震災が起きたちょうど一年前の三月にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山が大爆発したのも、やっぱりプレートが繋がっているせいなのかしら、とふと想うこともあるのだが、いつか機会があったら尋ねてみたい。
いずれにしても、確かに、アイスランドも日本も火山と温泉があって、地震がある。

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いつかアイスランドを再訪したい、今度は温泉に浸かりながらオーロラを見てみたい。そう願いながらも、かなわないまま今に至る。

ただ、かつて訪れた大島の火山岩に覆われた風景が、どこかアイスランドに似ていて驚いたことがある。レイキャビクの街でビョークを見たんだよ! と友人に自慢をしたら、いやいや私も数日前にフジロックでビョークを見たしと返信が来たことも思い出す。
灯台下暗し。

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なんていうことはない、似ているのは風景だけじゃない。調べてみたら、日本にも幾つも間欠泉があるらしい。
静岡県の峰温泉大噴湯公園には「東洋一の間欠泉」と呼ばれる間欠泉があるそうで、北海道にも鹿部温泉や登別温泉などなど。

案外、青い鳥というやつは、身近なところにもいるのかもしれない。

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小林エリカ
Photo by Mie Morimoto
文・絵小林エリカ
小説家・マンガ家。1978年東京生まれ。アンネ・フランクと実父の日記をモチーフにした『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア)で注目を集め、『マダム・キュリーと朝食を』(集英社)で第27回三島賞候補、第151回芥川賞候補に。光の歴史を巡るコミック最新刊『光の子ども3』(リトルモア)、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社)など。2021年7月にシャーロキアンの父を書いた『最後の挨拶His Last Bow』(講談社)、8月25日に自身初となる絵本作品『わたしは しなない おんなのこ』発売。