


政治・経済の中心だった江戸で生まれた「浮世絵」。庶民の楽しみとして始まりましたが、大名や武士たちにも好まれるようになり日本全国で支持されるように。その後、モネやゴッホといった西洋の画家にも影響を与えました。風景画や役者絵、美人画、名所画などジャンルもさまざま。この夏は、浮世絵本来の美しさはもちろん、絵師の作風なども楽しめる美術館に出かけてみませんか。
文/松尾好江(ランズ)

浮世絵は、江戸時代17世紀末ごろに誕生しました。「浮世」は「この世」を意味します。はじめは「憂世」の字が当てられていましたが、国が安定したことで生きているこの世を楽しもうという風潮となり「浮世」と表されるようになったといいます。浮世絵は本の挿絵でしたが、絵がやがて文字より大きくなり、1枚の絵として独立して摺られるようになりました。最初は墨一色でしたが、2~3色の「紅摺り絵」や7~8色の「錦絵」へと発展。また、木版画という画期的な印刷技術によって大量に摺られるようになりました。浮世絵はカラーで美しく、また安く手に入ったため庶民の間で人気を集めることになったのです。

「須佐之男命厄神退治之図」を復元展示している
宝暦10(1760)年、本所割下水(現在の墨田区)に生まれた葛飾北斎は、90年の生涯のほとんどを「すみだ」で過ごしました。そんな北斎の生まれた町に2016年にオープンした「すみだ北斎美術館」。4階のAURORA(常設展示室)では北斎の生涯に沿いながら代表作などを「実物大高精細レプリカ」で鑑賞できるほか、絵手本『北斎漫画』(全15編)をタッチパネルで鑑賞できたり、浮世絵の制作工程などが紹介されたりしています。3・4階は企画展会場があり、7月20日からは「THE 北斎-冨嶽三十六景と幻の絵巻-」を開催。赤富士こと赤い富士山を描いた「凱風快晴」や日本の四季の美しさを表現した作品が展示されます。1階のミュージアムショップでは、北斎や浮世絵に関するグッズのほか、オリジナルグッズを手に入れられます。
すみだ北斎美術館
住所/東京都墨田区亀沢2-7-2
営業時間/9:30~17:30(入館は~17:00)
休館日/月曜日(祝日または振替休日の場合は翌平日)、年末年始
料金/400円(常設展示のみ)※ほか企画展ごとに異なる(詳細は公式HP参照)
アクセス/電車:都営地下鉄大江戸線両国駅から徒歩約5分、JR総武線両国駅から徒歩約9分
電話/03-6658-8936







江戸後期になると京都や大阪でも浮世絵が制作され、京都・大阪での作品は「上方絵」と呼ばれていました。2019年、大阪の心斎橋筋商店街にオープンした大阪浮世絵美術館では、江戸で活躍した葛飾北斎や歌川広重、喜多川歌麿、東洲斎写楽を中心に、大阪や京都にゆかりのある浮世絵版画を所蔵しています。8月29日まで企画展「巨匠の愛した北斎、広重」を開催中。北斎の「冨嶽三十六景」と広重の「名所江戸百景」や、大阪・京都の名所などが描かれた浮世絵版画を59点展示。歌川国貞の弟子の歌川貞秀が大阪全体を9枚続きの大画面で描いた「大坂名所一覧」や、広重が四条河原や金閣寺などを描いた「京都名所之内」など、当時の関西の風景が感じられる作品に触れられます。
大阪浮世絵美術館
住所/大阪府大阪市中央区心斎橋筋2-2-23不二家心斎橋ビル3F
営業時間/10:00~17:00(入館は~16:30)
休館日/月曜日(祝日の場合は営業)、年末年始
料金/1,000円
アクセス/電車:大阪メトロ心斎橋駅から徒歩約5分、大阪メトロなんば駅から徒歩約7分
電話/06-4256-1311


白壁の蔵屋敷や柳並木があり、情緒あふれる倉敷美観地区に2021年3月に「歌川国芳」のミュージアムがオープン。旅館だった建物をリノベーションした館内には、国芳をはじめ国芳の弟子たちの作品約100点が展示されています。歌川国芳は、31歳のころ中国の豪傑を描いた武者絵シリーズ「通俗水滸伝豪傑百八人之一個(つうぞくすいこでんごうけつひゃくはちにんのひとり)」で脚光を浴び、人気絵師の仲間入りを果たしました。また1枚でも鑑賞できる「三枚続」の絵を、あえて3枚の絵をつなげなければ鑑賞できないようにした、迫力ある三枚続を作ったのも国芳です。「龍宮玉取姫之図(りゅうぐうたまとりひめのず)」や、「見立東海道五十三次 岡部 猫石の由来(みたてとうかいどうごじゅうさんつぎ おかべ ねこいしのゆらい)」といった武者絵の作品などを数多く展示しています。
UKIYO-E KURASHIKI
住所/岡山県倉敷市本町1-24
営業時間/10:00~18:00(入館は~17:30)
休館日/火曜日、年末年始
料金/1,300円
アクセス/電車:JR山陽本線、伯備線倉敷駅から徒歩約15分
電話/090-8242-1443





旧中山道の大井宿があった地に建てられたのは、風景画で人気を集めた絵師「歌川広重」の浮世絵を中心に約1500点を所蔵する美術館。7月18日まで企画展「諸国山巡り-山海見立相撲お披露目-」が開催されており、四季折々の山を色鮮やかに描いた浮世絵の風景画を楽しめます。また2階の「重ね摺り体験コーナー」では、模擬版による浮世絵の重ね摺りが体験でき、摺った作品は持ち帰ることも。1階のミュージアムショップでは、広重の浮世絵のなかに登場する「おじさん」たちを集めた「広重おじさん図鑑」などのオリジナルグッズが購入できます。
中山道広重美術館
住所/岐阜県恵那市大井町176-1
営業時間/9:30~17:00(入館は~16:30)
休館日/月曜日(祝日の場合は翌平日)、年末年始
料金/520円(企画展)、820円(特別企画展)
アクセス/電車:JR中央本線恵那駅から徒歩約5分、車:中央自動車道恵那ICから約5分
電話/0573-20-0522


山口県立萩美術館・浦上記念館蔵(浦上コレクション)

特別展「北斎づくし」
会場/東京都港区赤坂9-7-2 東京ミッドタウン・ホール
[東京ミッドタウンB1]
期間/前期:7/22~8/9、後期:8/11~9/17
営業時間/11:00~19:00(入館は~18:30)
休館日/8/10、8/24、9/7
料金/1,800円
電話/050-5542-8600