「え? 宮崎餃子の定義ですか? 実は厳密なものはまだありません(笑)」と赤裸々に語るのは、宮崎市ぎょうざ協議会の会長であり、宮崎の人気ラーメン店「屋台骨」で働く渡辺愛香さん。「お店によって皮の厚さはさまざま、野菜などを練り込んだカラフルな餃子も評判です。辛いスープに入れた水餃子があったり、チーズフォンデュのような焼き餃子があったり。どのスーパーに行っても県内産の生餃子が5種類は並んでいるほど、本当にバラエティ豊かだと思います」。そんな多様に進化し続ける宮崎餃子の背景にあると言うのが“おすそ分け”の文化。自分が餃子を食べる際には、親兄弟やご近所さんといった親しい相手にも手土産として渡す習慣が根付いているそうです。自然と餃子激戦区となった宮崎市は、総務省の統計により2020年上半期の支出金額と購入頻度で日本一だったことが判明。宇都宮市や浜松市などに並ぶ、新しい“餃子のまち”として、大きな注目を集めることになりました。
「一昔前まで、市内で餃子を生産するお店はほとんどありませんでした。そんななか父がいきなり餃子屋をはじめると言い出したんです。今から25年ほど前、まだ私は中学生だったこともあり、非常に複雑な心境でした(笑)」。手探りながら「アピールの生ギョウザ」として創業。元々、精肉卸をしてたお父さまの手腕もあり、ラーメン店などに生餃子を卸す会社として経営は軌道に乗ったと言います。やがて娘の渡辺さんも経理として働きはじめますが……「7年前、父が体調を崩して廃業することになりました。従業員の行き先確保に四苦八苦していたとき『ラーメンと餃子で宮崎を盛り上げたい』と事業を引き継いでくれたのが屋台骨の代表です」。幼い2人の子育てで多忙だった渡辺さんですが、パートタイムで「1年ぐらい恩返しをしてから辞めよう」と屋台骨を手伝うことに。赤字続きの餃子事業を盛り上げようと奮闘するうち、統括マネージャーに抜擢。そこから餃子に情熱を注ぐ多くの料理人、そして地元の生産者たちと絆を深めていくことになります。
皮はカリッと香ばしく、餡はふっくら、肉汁もたっぷり。キャベツの優しい甘さが広がるうえに、ニンニクやニラも力強く香ります。「以前までの餃子は、県内産以外の食材が混じることもあって、断腸の思いで仕入先を一新しました。質の高い地元の新鮮素材だからこそ、シンプルな調味料だけで美味しく焼き上がるんです」。県内各所をめぐって契約農家中心の安定した仕入れルートを築き、現在の味にまで仕上げたという渡辺さん。お客さんからの意見を参考に肉と野菜の配分にも改良を加えた結果、自然と栄養のバランスも整ったと言います。「後になって調べてみると、PFCバランスも厚生労働省が推奨する理想的な数値になっていました」。三大栄養素であるタンパク質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrate)が黄金比という屋台骨の餃子。味わい深いうえにヘルシー、さらには3個100円という価格にも驚かされます。
「忙しくも楽しく働いていますよ」と微笑む渡辺さんですが、聞けば聞くほど本当に多忙。餃子の仕込みからはじまり、スーパー関連のバイヤーと交渉をしたり、各支店をめぐり事務作業をしたり。毎月3日に制定した「餃子の日」のイベント準備、餃子マップの作成など、宮崎市ぎょうざ協議会の会長としての役目も山積みです。「暗い話題が多かった昨年『2020年上半期、宮崎市が餃子で日本一』という明るいニュースに、いても立っていられなくなりました。私は経営者ではありませんが、それでもポジティブに、できることを続けてきたんです」。渡辺さんが発起人となり11社からスタートした協議会。正式な発足時には18社となり、現在は35社にまで広がりました。「新しい観光資源としてだけでなく、宮崎の食材をいっぱい使って、より美味しく、生産者の皆さまにも喜んでいただけるように活動の輪を広げていきたいです」。大きな盛り上がりを見せつつある “餃子のまち”宮崎。地域が一丸となることで、これまで以上に多種多様な餃子も誕生しそうです。
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屋台骨 本店(元祖 屋台骨、製麺所、生餃子製造直売所)
住所/〒880-0834 宮崎県宮崎市新別府町雀田1185中央卸売市場内
電話/0985-28-2945
定休日/日曜日、祝日
営業時間/10:30~14:00(L.O.13:50)、生餃子製造直売所8:00〜15:00
アクセス/JR各線 宮崎駅から徒歩約30分
駐車場/30台