「漁師の仕事は完全歩合制です。ライバルより多く獲れば、その分だけ儲かります。稼ぎが少ないときは妻の機嫌も悪くなって……(笑)」と、軽妙な語り口で観光ガイドをするのは、漁師歴16年の滝和紀さん。「競い合ってばかりでは、いつか資源が枯渇するかもしれません。そこで新湊の白えび漁船は1日交代のチーム制で、利益を平等に分け合いながら漁をしているんです」と話します。かきいれどきに漁船を観光船として活用できるのも、そうした新湊に根付く文化があればこそ。
「現在の海の深さは水深約320mで東京タワーが沈むくらい。岸から15分ほどの距離で、ここまで急激に深くなる湾は世界的にも稀なんです」と滝さん。白えびが生息しているのも水深200〜300mの深海と言われています。群れを狙うのが非常に難しく、漁として確立できている船は新湊漁港の8隻と、お隣にある岩瀬漁港の6隻だけ。全国に14隻しか存在していません。「群れがどう動くのか予測しながら、深海に沈めた網を約30分かけて船で引くのが船長の腕の見せどころ」なのだとか。今回の投網の結果は……見事に成功のようです! 空が透けてみえるほど透明で美しい白えび。“富山湾の宝石”と称されているのも納得でした。「ぜひ殻ごと生で、世界一の旨みを楽しんでください」と滝さんが豪語するだけあり、海水による塩気だけでもしっかりと濃い味が。
観光船が新湊漁港に戻った直後にはじまったのが、仲買人による競り。「ほかの魚介類の競りは1日2回、決まった時間に行われますが、鮮度の保持が難しい白えびは違います。仲買人が港に待ち構えており、水揚げの度に競りが行われるのです」と教えてくれたのは、先ほどまで観光船を運転していた船長の野口和宏さん。富山湾しろえび倶楽部の発起人のひとりでもあります。「新湊の漁師が利益や知識を共有する文化は、父親たちの世代からはじまりました。でも漁師って口下手な人ばかりだから、上手に発信ができていなかったんです」と、プロジェクトをはじめたきっかけを話します。その目的は観光船の運行やイベントの出演などを通じて“持続可能な漁業”を世の中に発信し、白えびの価値を高めること。その狙い通り、発足から1年足らずで農林水産省、消費者庁、環境省が連携で主催する「サステナアワード 2020年」で大賞を受賞するなど、大きな注目を集める取り組みに発展しています。
「観光船を楽しんだ後は、漁港内にある食堂で朝食を食べてはいかがでしょう?」と提案してくれたのは、先ほどまで漁をしていた富山湾しろえび倶楽部の発起人のひとり、栄勢丸(エイセイマル)船長の縄井恒さんです。オススメの「きときと食堂」は、漁港内で85年以上も魚介類を卸してきた鮮魚店が運営しており、美味しい魚を仕入れる目利きは折り紙付き。ちなみに「きときと」とは富山弁で「新鮮な」という意味です。まずは富山湾の特産品ベニズワイガニと白えびの夢の共演が堪能できる、紅白丼1,700円(みそ汁、つけもの付き)をいただきました。むき身の白えびは、とろけるような食感。肉厚で食べごたえのあるカニとの対比がたまりません。9時以降の限定メニューとしては、白エビクリームコロッケ定食850円(ごはん、みそ汁、つけもの、おかず2品つき)も魅力的。頭から尻尾まで白えびを使っており、香ばしくて食感豊か。市内各地の飲食店でも、それぞれ独自の白エビクリームコロッケ料理が楽しめるそうなので、ぜひ食べ歩いてみてください。
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しろえび倶楽部 事務局
住所/〒934-0025 富山県射水市八幡町1-1100 新湊漁業協同組合内
電話/0766-82-7707(完全予約制、受付は月、火、木、金の9:00〜15:00)
定休日/水曜、日曜(土曜は不定休)
※2021年の白えび漁観光船運航実施期間は10月29日(金)までを予定
観光船の乗船時間/4:30〜7:30頃
料金/大人5,000円、小・中学生3,000円
観光船乗船口までのアクセス/万葉線新湊港線 東新湊駅から徒歩9分
駐車場/約150台
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きときと食堂
住所/〒934-0025 富山県射水市八幡町1-1100
電話/0766-54-0310
定休日/水曜
営業時間/5:30~14:30(LO14:00)
アクセス/万葉線新湊港線 東新湊駅から徒歩5分
駐車場/約150台