映画『のさりの島』は、優しくも不思議な気持ちになる作品だと思いました。ご覧になっていかがでしたか?
不思議な映画ですよね。最後の方のシーンの「まやかしでも、人には必要な時があっど」というセリフが僕の中にずっと残っていて。主人公が身分を偽っておばあちゃんの孫になりすますという、その時間が嘘であろうと、そこには確かなもの、救いみたいなものがあったというか。そういうことを、この一言が表現しているなと思いました。言われてみると、映画だって芝居だってある意味嘘ですけど、そういうものが必要な時だってある。本当のことや手に取れるもの、目に見えるものだけじゃない、例えばそこで生きて来た人たちの思いとか、そういう目に見えないものが映った映画なんじゃないかなと思っています。
ブログで「コロナ禍において映画『のさりの島』を静かに想うことが増えました」と書かれていましたが、どんなことを考えていたんですか?
“のさり”という言葉は、良いことも悪いことも天からの授かりものであるという天草地方の考え方なんですけど、現在の状況を少し違う捉え方で考えることができる言葉なんじゃないかなと思って。コロナ禍で自分の身に起きた様々なことも、一つの“のさり”と捉えることで、敵対したり憎むだけではなく、共に生きるということを考えられる。この映画の物語を見ても、考えざるを得なかったです。
共演された原知佐子さんについては、どんな印象でしたか?
原さんは本当に美しい方でした。ユーモアもあって、凛としていて。物語を信じる力が強い方だったなと思います。例えば、おいしい料理をたくさん食べるシーンがあるんですけど、僕は俳優として「これ誰が作ったんですか?」ってスタッフさんに聞いたんです。そうしたら原さんが「これはね、私が作ったのよ」って言ったんです。そうだ、これは“ばあちゃん”が作った飯なんだ、これが物語を信じるってことだなと思って。大事なことに気づかされました。その時の原さんのいたずらっぽい微笑みも魅力的でしたね。
舞台は熊本県の天草で、映画の中では旅に行きたくなる風景もありつつ、銀天街など寂しい風景も描かれていました。天草で撮影期間を過ごされて、いかがでしたか?
第二の故郷だと思っています、大好きですね。天草の方から頂いたお酒やお味噌、お醤油などを数々の現場やいろんな方に配りました。「天草って最高の街なんです。この焼酎を飲めばわかるんで」って言って。
銀天街は確かに寂しいんですけど、夜になるとどこからかカラオケの音が聞こえてくるんです。音に引き寄せられるようにスナックに入って、米焼酎飲んでカラオケをしたり。最高でしたね。
撮影中も食べ物とかの支援をいただいて、毎日お昼休憩になると信じられない量のご飯が食卓に並ぶんですよ。それを恩に着せることもなく、ただ僕らを受け入れて、共に生活してくれる。その天草の精神はどこから来ているんだろうと思うと、深いところに“のさり”の精神を感じますね。
天草の料理で、特に何がおいしかったですか?
なんでもおいしかったですけど、毎日食べていたのはお刺身ですね。北海道出身なんですけど、これは北海道でも勝てないかもっていうぐらいおいしかったです。生き生きした魚をたまり醤油で食べて、天草酒造とか霧島酒造とかの焼酎で飲む瞬間は、衝撃でしたね。柚子胡椒をつけて食べる豚足もおいしかったです。
印象的な場所はありますか?
﨑津の教会は特別でしたね。﨑津の教会から船を出して行った、崖に立つマリア像の景色は一生忘れないです。マリア像っていう目に映るもの以外の何かが見えた気がして、それは映画の中にもちゃんと映っている気がします。矛盾しているようですが、そう感じました。
﨑津の教会は、おみやげが売られている露店が出ているんですけど、8個入り200円とかで売っている天然色の貝殻を大量に買って、これもまたいろんな方に配りましたね。
観光大使みたいですね。﨑津教会やマリア像のシーンは見ていても印象的で、行ってみたいと思わされました。そんな風に、藤原さんにとって「旅に行きたくなる」作品はありますか?
ひとり旅をするようになったきっかけは、村上春樹の小説でしたね。『海辺のカフカ』と映画でも見た『ノルウェイの森』。『海辺のカフカ』は、夜行バスで香川県の高松市に行くシーンがあって、それに憧れて僕も夜行バスでしょっちゅう旅に出ます。『ノルウェイの森』では能登半島を歩いて一周するというセリフがあって。そのあと緑っていう女の子に「孤独が好きなの?」って聞かれて、主人公が「孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友達を作らないだけだよ。そんなことをしたってガッカリするだけだもの」って言うんですけど「めっちゃかっけえな!」と思って(笑)。そこから僕も、寝袋を持ってひとり旅をするようになりました。
これまでひとり旅ではどんなところに行ったんですか?
東北は全部まわりましたし、京都、大阪、奈良、三重、愛知、静岡は歩いて横断しました。三重県では歩いて山を越えたんですけど、その山の中で信じられないぐらい解放的な気持ちになって。僕は、人との関係性とかを一時的に遮断したくなってひとり旅に出ることが多いんですけど、10日を越えたぐらいで圧倒的な孤独を感じるんですよ。「さみしい!」って。でもその山を越えている瞬間だけは、ひとりでも生きていけると思いました。お金も持って行かなかったので、お腹がすいていたはずなんですけど、その時は空腹も一切感じなかったですし。ひとりで森山直太朗さんの曲とかを全力で歌っていました。解放的で、不思議な体験でしたね。三重県はもう一回行ってみたいなって思っています。
もともと自然が好きだったんですか?
そうですね。じいちゃんが海の男だったので、海は好きです。だからこの間も、東北の海沿いをずーっと歩きました。
今後どこに行ってみたいですか?
九州は行ってみたいです。特に福岡は行ったことがないので。この間地図アプリで見て、福岡ってこんな海が近いんだと思って。さぞ飯がうまかろうと。ご飯は大事ですからね。あと、高知県の栗焼酎とか日本酒が大好きなので四国も行ってみたいです。ここの食べ物とここの飲み物美味いなって思うところは、自分に縁があるのかもしれないって勝手に結び付けて、次の目的地にしちゃうんですよね。とにかく日本が好きです。日本のあらゆる場所で一年ぐらい暮らしてみるっていうことを、今後やってみたいと思っているんです。一週間や二週間じゃわからないことっていっぱいあるので。