俳優 藤原季節
Special Interview
“天草が大好きすぎて
第二の故郷だと思っています”
主演映画『のさりの島』をはじめ
多数の出演作品が控える藤原季節さん。
撮影後も続く熊本・天草との繋がりや
ひとり旅のきっかけとなった名著の話、
パワフルな旅事情などを伺いました。
取材・文/小林未亜(エンターバンク)
撮影/山下陽子
ヘアメイク/中村兼也(Maison de Noche)
スタイリング/八木啓紀

映画『のさりの島』は、優しくも不思議な気持ちになる作品だと思いました。ご覧になっていかがでしたか?

不思議な映画ですよね。最後の方のシーンの「まやかしでも、人には必要な時があっど」というセリフが僕の中にずっと残っていて。主人公が身分を偽っておばあちゃんの孫になりすますという、その時間が嘘であろうと、そこには確かなもの、救いみたいなものがあったというか。そういうことを、この一言が表現しているなと思いました。言われてみると、映画だって芝居だってある意味嘘ですけど、そういうものが必要な時だってある。本当のことや手に取れるもの、目に見えるものだけじゃない、例えばそこで生きて来た人たちの思いとか、そういう目に見えないものが映った映画なんじゃないかなと思っています。

ブログで「コロナ禍において映画『のさりの島』を静かに想うことが増えました」と書かれていましたが、どんなことを考えていたんですか?

“のさり”という言葉は、良いことも悪いことも天からの授かりものであるという天草地方の考え方なんですけど、現在の状況を少し違う捉え方で考えることができる言葉なんじゃないかなと思って。コロナ禍で自分の身に起きた様々なことも、一つの“のさり”と捉えることで、敵対したり憎むだけではなく、共に生きるということを考えられる。この映画の物語を見ても、考えざるを得なかったです。

共演された原知佐子さんについては、どんな印象でしたか?

原さんは本当に美しい方でした。ユーモアもあって、凛としていて。物語を信じる力が強い方だったなと思います。例えば、おいしい料理をたくさん食べるシーンがあるんですけど、僕は俳優として「これ誰が作ったんですか?」ってスタッフさんに聞いたんです。そうしたら原さんが「これはね、私が作ったのよ」って言ったんです。そうだ、これは“ばあちゃん”が作った飯なんだ、これが物語を信じるってことだなと思って。大事なことに気づかされました。その時の原さんのいたずらっぽい微笑みも魅力的でしたね。

舞台は熊本県の天草で、映画の中では旅に行きたくなる風景もありつつ、銀天街など寂しい風景も描かれていました。天草で撮影期間を過ごされて、いかがでしたか?

第二の故郷だと思っています、大好きですね。天草の方から頂いたお酒やお味噌、お醤油などを数々の現場やいろんな方に配りました。「天草って最高の街なんです。この焼酎を飲めばわかるんで」って言って。

銀天街は確かに寂しいんですけど、夜になるとどこからかカラオケの音が聞こえてくるんです。音に引き寄せられるようにスナックに入って、米焼酎飲んでカラオケをしたり。最高でしたね。

撮影中も食べ物とかの支援をいただいて、毎日お昼休憩になると信じられない量のご飯が食卓に並ぶんですよ。それを恩に着せることもなく、ただ僕らを受け入れて、共に生活してくれる。その天草の精神はどこから来ているんだろうと思うと、深いところに“のさり”の精神を感じますね。

天草の料理で、特に何がおいしかったですか?

なんでもおいしかったですけど、毎日食べていたのはお刺身ですね。北海道出身なんですけど、これは北海道でも勝てないかもっていうぐらいおいしかったです。生き生きした魚をたまり醤油で食べて、天草酒造とか霧島酒造とかの焼酎で飲む瞬間は、衝撃でしたね。柚子胡椒をつけて食べる豚足もおいしかったです。

印象的な場所はありますか?

﨑津の教会は特別でしたね。﨑津の教会から船を出して行った、崖に立つマリア像の景色は一生忘れないです。マリア像っていう目に映るもの以外の何かが見えた気がして、それは映画の中にもちゃんと映っている気がします。矛盾しているようですが、そう感じました。

﨑津の教会は、おみやげが売られている露店が出ているんですけど、8個入り200円とかで売っている天然色の貝殻を大量に買って、これもまたいろんな方に配りましたね。

観光大使みたいですね。﨑津教会やマリア像のシーンは見ていても印象的で、行ってみたいと思わされました。そんな風に、藤原さんにとって「旅に行きたくなる」作品はありますか?

ひとり旅をするようになったきっかけは、村上春樹の小説でしたね。『海辺のカフカ』と映画でも見た『ノルウェイの森』。『海辺のカフカ』は、夜行バスで香川県の高松市に行くシーンがあって、それに憧れて僕も夜行バスでしょっちゅう旅に出ます。『ノルウェイの森』では能登半島を歩いて一周するというセリフがあって。そのあと緑っていう女の子に「孤独が好きなの?」って聞かれて、主人公が「孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友達を作らないだけだよ。そんなことをしたってガッカリするだけだもの」って言うんですけど「めっちゃかっけえな!」と思って(笑)。そこから僕も、寝袋を持ってひとり旅をするようになりました。

これまでひとり旅ではどんなところに行ったんですか?

東北は全部まわりましたし、京都、大阪、奈良、三重、愛知、静岡は歩いて横断しました。三重県では歩いて山を越えたんですけど、その山の中で信じられないぐらい解放的な気持ちになって。僕は、人との関係性とかを一時的に遮断したくなってひとり旅に出ることが多いんですけど、10日を越えたぐらいで圧倒的な孤独を感じるんですよ。「さみしい!」って。でもその山を越えている瞬間だけは、ひとりでも生きていけると思いました。お金も持って行かなかったので、お腹がすいていたはずなんですけど、その時は空腹も一切感じなかったですし。ひとりで森山直太朗さんの曲とかを全力で歌っていました。解放的で、不思議な体験でしたね。三重県はもう一回行ってみたいなって思っています。

もともと自然が好きだったんですか?

そうですね。じいちゃんが海の男だったので、海は好きです。だからこの間も、東北の海沿いをずーっと歩きました。

今後どこに行ってみたいですか?

九州は行ってみたいです。特に福岡は行ったことがないので。この間地図アプリで見て、福岡ってこんな海が近いんだと思って。さぞ飯がうまかろうと。ご飯は大事ですからね。あと、高知県の栗焼酎とか日本酒が大好きなので四国も行ってみたいです。ここの食べ物とここの飲み物美味いなって思うところは、自分に縁があるのかもしれないって勝手に結び付けて、次の目的地にしちゃうんですよね。とにかく日本が好きです。日本のあらゆる場所で一年ぐらい暮らしてみるっていうことを、今後やってみたいと思っているんです。一週間や二週間じゃわからないことっていっぱいあるので。

藤原季節さんが旅に行きたくなる本

『海辺のカフカ』

『海辺のカフカ』

村上春樹/著
(上)880円、(下)935円/新潮文庫

「僕」こと少年・田村カフカが、15歳になった誕生日の夜に、ひとり家を出て夜行バスで知らない街へと旅立つところから始まる長編小説。演出家の蜷川幸雄によって舞台化もされている。
『ノルウェイの森』

『ノルウェイの森』

村上春樹/著
(上)(下)各682円/講談社文庫

2010年にトラン・アン・ユン監督によって映画化もされた恋愛小説。主人公のワタナベが、ハンブルク空港に到着した飛行機の中で、ビートルズの「ノルウェイの森」を聞いたことから、20歳の頃の出来事を思い出す。
INFORMATION
『のさりの島』

『のさりの島』

2021年5月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

京都芸術大学映画学科の学生とプロが一緒になって劇場映画を制作するプロジェクト「北白川派」の最新作。オレオレ詐欺の旅を続ける男(藤原季節)が、熊本県・天草の寂れた商店街にたどり着く。そこでなぜか老女・艶子(原知佐子)に孫の“将太”として招き入れられ、奇妙な共同生活を送るようになり、男はいつしかその優しい時間に心地よさを感じていく。

監督・脚本:山本起也 プロデューサー:小山薫堂
出演:藤原季節、原知佐子、杉原亜実、中田茉奈実、宮本伊織、西野光、小倉綾乃、酒井洋輔、kento fukaya、水上竜士、野呂圭介、外波山文明、吉澤健、柄本明ほか
配給:北白川派

Profile
藤原季節
藤原季節Kisetsu Fujiwara

1993年1月18日生まれ、北海道出身。『人狼ゲーム ビーストサイド』(2014年)で本格的に俳優活動をスタート。以降、さまざまな映画、ドラマ、舞台に出演。近作に、映画『his』、『佐々木、イン、マイマイン』(2020年)、ドラマ『監察医 朝顔』(2019年、2020~2021年/フジテレビ)、『西荻窪三ツ星洋酒堂』(2021年/MBS)、舞台『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』(2021年)など。現在、NHK大河ドラマ『青天を衝け』が放送中、映画『くれなずめ』が公開中。今後の作品に、映画『明日の食卓』(5月28日公開)、『空白』(9月23日公開)、『よろこびのうた Ode to Joy』(2021年公開予定)などが控える。

  • ■インタビュー
    藤原季節さんが旅に行きたくなる本とは?
  • ■いま読みたい本
    間室道子さんが選ぶ傘が印象的な本
  • ■いま観たい映画
    東紗友美さんが選ぶ傘が印象的な映画
  • ■インタビュー
    藤原季節さんが旅に行きたくなる本とは?
  • ■いま読みたい本
    間室道子さんが選ぶ傘が印象的な本
  • ■いま観たい映画
    東紗友美さんが選ぶ傘が印象的な映画