俳優 三浦貴大
“観た後、旅に行った気になれるのが
映画のいいところだなと思います”
鹿児島県薩摩川内市の伝統行事である
“川内大綱引”をモチーフにした映画
『大綱引の恋』で主演を務める三浦貴大さん。
撮影秘話や佐々部清監督との思い出などを
終始朗らかな表情で語ってくれました。
取材・文/小林未亜(エンターバンク)
撮影/山下陽子
ヘアメイク/KEN
スタイリング/涌井宏美
衣装協力:ジャケット、パンツ、スニーカー
(全てROL吉祥寺店0422-20-4555)
シャツ スタイリスト私物

主演映画『大綱引の恋』について、オファーを受けた時の気持ちを教えてください。

佐々部監督の作品は、家族のことを描いているものや、静かな作品が多いので、僕はすごく好きなんです。だからお話をいただいた時は、佐々部監督の作品に出られることが非常にうれしくて。脚本自体も佐々部監督らしい温かいストーリーだったので、出演するのが楽しみでしたね。

佐々部監督の作品に初めて出演されて、監督から受けた演出やかけられた言葉で印象的だったものはありますか?

今回、佐々部監督に初めてお会いしていろんな話をしたんですが、佐々部監督の人柄や現場の作り方が、本当に一つの家族のようなんですよね。そういう監督だからこそ、こういう作品を今まで作っていらっしゃったんだなと思いました。

監督とお話ししている中で、「貴大、映画は準備なんだよ」とおっしゃっていて。「現場だけじゃなくて、それ以前にどれだけ準備をしたかでいい映画が撮れるか撮れないかが決まるんだよ」と。それは役者単体にも言えるし、その前の、脚本や撮影の前段階の話とか、いろんなことにつながってくるなと思って、すごく勉強になりましたね。

佐々部監督にとって最後の作品になってしまいましたが、どんな思いでいらっしゃいますか?

これが遺作という形になってしまって本当に残念ですけど、遺作ということは抜きにして、映画を映画として広めていければいいんじゃないかな、佐々部監督もきっとそう思っているんじゃないかな、と思います。今まで通りというか、一本の映画として、しっかり、いろんな人に見てもらえるように努力をしていきたいなと思っています。

映画を拝見して、“川内(せんだい)大綱引”のシーンの迫力に驚きました。撮影の雰囲気はいかがでしたか?

すごかったですね。その年の大綱引が終わって1週間後くらいに、大綱引をやっている方たちが改めて集まって、撮影に協力してくれたんです。撮影って、力が入ってそうに見えて力を入れないようにするとか、いろんなところにウソがあるんですけど、みなさん本気の方たちなので、実際に大綱引に参加しているような錯覚に陥るというか……。もうみんな汗だくで、鉄で作った足場とかも折れちゃって。人の力はすごいなと思いました。地元の方たちが愛しているお祭りなんだということもあらためて思いましたし。本番の大綱引は終わったのに、映画のためにもう一回やろうといって協力してくださったのが本当にうれしかったですね。

川内大綱引の中心的な役割を担う“一番太鼓”として、三浦さんが太鼓を叩く姿もかっこよかったです。体力作り、体作りのために何かされましたか?

とにかく太鼓の練習をしていましたね。映画ではそんなに長くないですが、本来一時間とか一時間半とかずっと腕を上げっぱなしなので、相当な体力がいるんです。過去に一番太鼓をやっていた方たちに教えていただいて、かなり練習しましたね。

太鼓だけでなく、劇中、鹿児島弁や韓国語も話されていたことも大変そうだなと思いました。

大変でしたね……。監督も「いやー、貴大ごめんなー」とか言っていましたけど(笑)。地方で撮影するにあたって、その土地の言葉を話すのが一番大変なんですけど、そこに韓国語まで入ってきて、これは一体どうしたらいいんだっていう。だから、監督が「映画は準備だ」と言っているのはそういうところなんでしょうね。

方言は、事前に録音を聞いてたくさん練習しましたけど、いくら聞いても体になじんでこないんですよね。地方に撮影に行くと、だいたい地元の方と飲むことが多いんですけど、現地でそういう方たちとしゃべっていると自然と言葉が体になじんでくる感じがします。韓国語に関しては知英さんに散々ご迷惑をかけつつ教えていただきました。

共演者の方々とはどんな雰囲気だったんですか?

本当にみんな家族みたいでした。佐々部組経験者が多かったので、最初から家族みたいな雰囲気になっているんですよね。(妹役の)比嘉(愛未)さんも、僕のことを前から「にいにい」って呼んでいるから、ずっとお兄ちゃんみたいな感じですし。もう丸ごと家族みたいな感じでしたね。

見ていても家族のような雰囲気が伝わってきました。できあがった作品をご覧になってどんな風に思いましたか?

鹿児島県の川内っていう小さな街で行われているお祭りが題材になっていて、このお祭りがいろんな人の縁をつないでいるっていう話で。僕はやっぱり、佐々部監督が大事にしているのって人の縁だと思うんですよ。それは映画だけじゃなくて、普段の人との接し方とかも監督はすごく素敵な方だったので。そういう監督の人柄が出ていて、いい映画だなと思いました。こういう静かな映画で……まあ大綱引自体は大変暑苦しいお祭りですけど(笑)、その中に人とのつながりが温かく描かれていて、こういう映画が日本は多くていいなと思いましたし、もっと増えてほしいなとも思いましたね。

地元の方は、川内大綱引を継承したいという気持ちも込め、映画を応援されていると思います。去年のように綱引が中止になってしまう状況の中、この映画は励みになりますね。

そうですね。地元の方がこの映画を見て、「祭りってこんな感じだよね」ってモチベーションを失わずに、コロナがおさまったらまた、思いっきりやってくれたらいいですね。子どもたちが本当に楽しみにしているんです。大人になったら絶対この祭りに出るんだとか、太鼓叩くんだとか。一つの文化として絶対に大事なものなので、一つの資料としても、地元にずっと根付いてくれる映画になるといいです。

この映画もあてはまりますが、ここからは三浦さんにとって「旅に行きたくなる映画」をお聞きしたいです。何かありますか?

旅に出たくなるというと、すごく難しいですね……家が大好きなので(笑)。旅の雑誌なのにすみません。でも『イントゥ・ザ・ワイルド』という映画は、旅に出たくなるというか、外に出たくなりますね。人と触れ合うというよりは、一人で自然の中に旅立って行きたいなっていう気持ちはどこかにあるんです。

逆に映画のいいところって、行った気になれるというか。例えば『ローマの休日』を観てローマに行った気になれる、みたいなところが、僕は映画のいいところだと思っています。

映画の楽しみの一つですよね。ちなみに、映画の中で印象的な風景などは思いつきますか?

いま頭に浮かんでくるのは森の中ですね。『ランボー』とか(笑)。ジャングルいいよなあ、ジャングルなかなか行けないもんな、とか思ったり。頭の中がいま、アクション映画ばっかりになっちゃってます。あと、ジャッキー・チェンの初期の作品を見ていると、行った気にはなりますよね。この街はいっぱい色があっていいな、とかは思ったりします。

三浦さんならではのセレクトが面白いです! ありがとうございました。

三浦貴大さんが旅に行きたくなる映画

『イントゥ・ザ・ワイルド』

『イントゥ・ザ・ワイルド』

地方ロケでもホテルにいることが多いというほどインドアな三浦さんをも、「外に出たくなる」と思わせる旅ムービー。俳優のショーン・ペンが監督を手がけた実話ベースの映画で、この連載でも俳優さんから名前の挙がることの多い人気作品。
『ランボー』

『ランボー』

4Kレストア版Blu-ray5,280円 発売中
発売元・販売元:KADOKAWA

「映画の中の印象的な風景」として三浦さんの頭に浮かんだ、シルヴェスター・スタローン主演の大ヒットシリーズ第1作。スタローン演じるベトナム帰還兵ランボーの暴れっぷりに目を奪われるが、山や森、峡谷など、雄大な景色も見ごたえあり。
INFORMATION
『大綱引の恋』

『大綱引の恋』

2021年5月7日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国公開
※東京、京都、大阪、兵庫の4都府県への緊急事態宣言の発出により、映画館の時短営業や休館などが発表されています。詳細は映画館の公式サイトにてご確認ください。

『半落ち』(2004年)や『ツレがうつになりまして。』(2011年)など家族愛をテーマにした作品で知られ、昨年3月に急逝した佐々部清監督の最後の作品。鹿児島県薩摩川内市に400年以上続く“川内大綱引”をモチーフに、鳶の跡取り・武志(三浦貴大)と離島の診療所に勤務する韓国人研修医・ジヒョン(知英)の切ない恋と、二人を取り巻く家族や人間模様を描く。

監督:佐々部清
出演:三浦貴大、知英、比嘉愛未、中村優一、松本若菜、西田聖志郎、朝加真由美、升毅、石野真子ほか
配給:ショウゲート

Profile
三浦貴大
三浦貴大Takahiro Miura

1985年11月10日生まれ、東京都出身。俳優デビュー作『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』で、第35回報知映画賞新人賞、第34回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。近年の出演作は、映画『栞』(2018年)、 『ダンスウィズミー』、『ゴーストマスター』(2019年)、『初恋』、『実りゆく』、『望み』(2020年)、『大コメ騒動』(2021年)、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年)、連続テレビ小説『エール』(2020年)、『六畳間のピアノマン』(2021年/NHK)など。今後の作品に、映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021年夏公開)、『連続ドラマW 東野圭吾 さまよう刃』(5月15日放送開始/WOWOWプライム)などがある。

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