女優 シム・ウンギョン
Special Interview
“旅先では自然の多い場所を探して
お散歩したりするのが好きです”
韓国だけでなく、映画・ドラマ・舞台と
日本でも幅広く活躍中のシム・ウンギョンさん。
富司純子さんとW主演を務めた
映画『椿の庭』への思いや旅エピソードなど
流暢な日本語で話してくれました。
取材・文/小林未亜(エンターバンク)
撮影/山下陽子
ヘアメイク/shuco(3rd)

最近は日本の映画やドラマでシム・ウンギョンさんを見ることができてうれしいです。今回『椿の庭』に出演しようと思った決め手はなんですか?

上田さんですね。上田義彦さんという世界的な写真家の初映画作品に出演させていただくことになって、すごく光栄に思っています。上田さんがどういう風に映画作りをするのかもとても気になって、そばで見て学びたいという気持ちでいっぱいだったので、この作品に参加することにしました。

上田監督の映画作りは、他の作品と何か違うものを感じましたか?

違いますね。監督が撮影もされたのですが、自然光を使いながら自由自在に光を作って撮影されていて、「一体どうしたらそんなことができるの?」と、本当に驚きました。簡単に見えますが、上田さんが撮る映像は何かが違うなっていつも感じていて、上田さんの力は本当にすごいなとあらためて思いました。

作品を拝見して、どのシーンを切り取っても絵になる美しさがありました。作品をご覧になってどんな風に感じましたか?

私がこんなにきれいに映ることもあるんだ、と思いました(笑)。自分だけど自分じゃないというか、(演じた役の)渚そのままが映っているように見えました。今まで自分でも知らなかった一面が映っている、そういう気がしました。上田さんが撮影の前に「ウンギョンさんが持っているピュアさ、美しさを見せたいです」と私が恥ずかしくなるようなことをおっしゃってくれたのですが、本当に渚のありのままの美しさが見えて、「こんな自分もいるんだ」とうれしくなりましたし、とても素敵だと思いました。

特に思い入れのあるシーンはどこですか?

自分の出演シーンではないんですが、映画の後半、鈴木京香さん演じる陶子さんがソファに座っているシーンですね。照明もなく、窓の隙間から漏れる光だけで陶子さんがやっと見えるような暗いシーンです。私もモニターで見ていたんですけど、何度も撮り直した記憶があります。その時は何が違うのかわからなかったけど(笑)、私の目には見えないものがきっとあるんだろうと思いました。そのシーンが、上田さんが求めている映像の美学が込められたシーンのひとつだと思うので、その撮影を見ているだけでも楽しかったです。

シム・ウンギョンさん、富司純子さん、鈴木京香さん、それぞれの世代の女性たちも美しかったです。共演されたお2人の印象はいかがでしたか?

この映画は一年をかけて撮ったのですが、渚の役は富司さんがいらっしゃらなかったら、存在しないキャラクターだと思います。富司さんから影響を受けたこと、学んだことも多かったですし、富司さんのこの作品への熱量やお芝居への姿勢などをそばで見たことで、渚の気持ちやピュアさなどが上手く演じられたと思います。富司さんには本当に感謝しています。

鈴木京香さんとも今回初めての共演でしたが、すごく美しくて、映画のまま優しい方でした。最初は、日本の有名な役者さんとの共演にちょっと緊張もしましたが、富司さんと鈴木さんがとても優しくしてくださって、気持ちが楽になりましたし、みなさんのおかげで自然な表現が出来たと思います。みなさんが作ってくださった温かい雰囲気のなかに、私はそのまま入っただけだと思います。

一年かけて撮影したとおっしゃっていたように、映画は春夏秋冬の物語が描かれています。日本の四季や自然についてどういう風に感じましたか?

(ロケ地である)葉山という場所はこの映画で初めて知って、初めて行った場所でした。おうちは和式で素敵でしたが、周りの風景がとても異国な感じがしました、日本だけど日本ではないというか。特に夏になると東南アジアのようだったのが印象的でしたが、それが『椿の庭』のテーマにもつながっているんだろうと思いました。なぜかというと、渚のキャラクターは帰国子女で、監督が、渚は異国な感じがする子、コスモポリタンという言葉を使っていらっしゃったので、それをずっと頭に入れて、渚の役作りをしたんです。

見ていて、あの場所に行ってみたいと感じました。シム・ウンギョンさんご自身は、「旅に行きたい」と思った映画や本はありますか?

私は『Casa BRUTUS』という雑誌を見ると、旅行に行きたくなります。各地にあるホテルや温泉が載っているのを見て、行ったような気持ちになったり、「こういうところいいな」と思ったりして。日本にはさまざまなところがあるんだなと改めて思います。最近はコロナで動きが不自由ですが、おさまったら日本のいいところへ旅に行きたいし、飛行機も乗りたいなと思っています。

あと、旅と言えるかわかりませんが、夏目漱石さんの『三四郎』を読んで、三四郎池に行ったことがあります。

『三四郎』はいつ頃読んだんですか?

読んだのは日本に来たばかりの三年前くらいですね。本の中で、三四郎がいつも悩んでいる時に行ってぼーっとしたりする池があって、それが東大の中に実際にあるらしいということで行ってみました。夏だったんですけど、蚊にいっぱい刺されました(笑)。でも実際に行ってみたら意外と大きな池で、とても静かで、「三四郎はこういう風に座ったのかなあ」とか思いながら、周りをお散歩しました。

もともと旅はお好きですか?

大好きです。飛行機に乗るのが大好きで。

思い入れのある旅先はどこですか?

東京とニューヨークですね。ニューヨークは私がアメリカ留学して卒業したところだし、東京は旅行にもよく行ったところで、今は仕事もしている場所だし。それぞれいろいろな思い出のある場所なんです。

東京で好きな場所はどこですか?

谷中ですね。谷根千っていうんですよね? そのあたりも好きだし、この間は清澄白河にも行きました。東京都現代美術館の隣に大きい公園(木場公園)があって、橋もあって、とても平和を感じましたし、夕焼けを見ながら「あーいいなあ」と思ったりしました。お散歩が好きなので、短い時間でもお散歩したりしました。

旅先では、お散歩したりすることが多いですか?

そうですね。公園が好きで、歩くのにふさわしい、自然が多い場所を探して行きます。ニューヨークでもセントラルパークとか、あと特に好きなのがブライアントパーク。留学していた時に、学校が終わったら電車に乗って行って、日当たりのいいところに2時間ぐらい座ってぼーっとしたり。近くに日本の紀伊國屋書店があって、まだ日本語がわからない時だったので英語で日本の漫画を読んで、ショートケーキとコーヒーを飲みながら、1人で癒しの時間を過ごしたりしましたね。

素敵です! ちなみに何の漫画を読んでいたんですか?

内容が分かっている『犬夜叉』や『ONE PIECE』など、有名な作品から読みました。日本の雑誌もありましたので、『MEN'S NON-NO』とかも買って読んだり(笑)。あと、その時期ちょっとガンプラにはまっていて、ガンプラの雑誌を読んだりもしました。ただ、値段がちょっと高かった記憶が……(笑)。だから母親に「我慢しなさい」とか「卒業して日本に直接行って買って読みなさい」って言われた記憶もあります(笑)。

楽しいお話をありがとうございます! 日本での旅エピソードがまだまだあると聞いているので、またいつか聞かせてください。

シム・ウンギョンさんが旅に行きたくなる本

『三四郎』

『三四郎』

夏目漱石/著
374円/新潮文庫

『それから』、『門』へと続く、夏目漱石の前期三部作の第一作。熊本の高等学校を卒業し、東京の大学に入学した小川三四郎の、学問、友情、恋愛への不安や戸惑いを描く。シム・ウンギョンさんが訪れたという池は、東京大学本郷キャンパスにある育徳園心字池。『三四郎』のモチーフとなった以降は“三四郎池”と呼ばれるようになった。
INFORMATION
『椿の庭』

『椿の庭』

2021年4月9日(金)、シネスイッチ銀座他
全国順次ロードショー

国内外で高い評価を得ている写真家・上田義彦の映画初監督作にして、構想から15年をかけた作品。物語の舞台となるのは、海を望む高台に立ち、庭に咲く四季折々の花や草木が美しい一軒家。亡き夫や子供たちとの思い出が詰まったその家を守る絹子(富司純子)と、ともに暮らす孫娘の渚(シム・ウンギョン)との日々を通して、命の美しさと儚さを描く。

監督・脚本・撮影:上田義彦
出演:富司純子、シム・ウンギョン、田辺誠一、清水綋治、チャン・チェン、鈴木京香ほか
配給:ビターズ・エンド

Profile
シム・ウンギョン
シム・ウンギョンEunKyung Shim

1994年5月31日生まれ、韓国出身。『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)で注目を集め、主演を務めた『怪しい彼女』(2014年)では百想芸術大賞映画部門最優秀主演女優賞など数々の女優賞を受賞。そのほか韓国での出演作に『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)など。日本でも『新聞記者』(2019年)で第43回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを受賞し、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(2019年)でも高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞。そのほか、舞台『良い子はみんなご褒美がもらえる』(2019年)やドラマ『七人の秘書』(2020年/テレビ朝日)、『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(2021年/テレビ東京)などでも活躍。今後の出演作に、舞台『消えちゃう病とタイムバンカーThe Vanishing Girl &The Time Banker』(4月6日~@東京芸術劇場プレイハウス)など。

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