女優 石橋静河 ©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会
Special Interview
“旅行から帰って来た時の
東京のワクワクする感じが好きです”
出演映画『あのこは貴族』が
2月26日に公開される石橋静河さん。
映画の舞台であり自身の出身地でもある
東京という街の印象や役柄への思いのほか
好きだという旅のお話を聞きました。
取材・文/小林未亜(エンターバンク)
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

映画『あのこは貴族』は、東京で生きる女性たちの心情が描かれ、特に女性は共感する方が多いと思います。完成した作品をご覧になって、どんなことを感じられましたか?

男女問わずいろんなタイプの人が出てきて、誰が良い人で誰が悪い人ということでもなく、それぞれがそれぞれの場所で一生懸命生きている姿を見ていて、なんだかとても共感できるなあと思うこともあって。たくさんの方に寄り添っている映画なんじゃないかなと感じました。

山内マリコさんの小説が原作ですが、原作は読んでいないと伺いました。原作は読まずに撮影に臨まれることが多いですか?

そうですね。わたしの場合は読むと「原作のファンの方たちはこういう風に思っているのかも」みたいなことを想像して、「こうあらねばならない」と自分がとらわれてしまう気がして。それは悪いことではないと思うんですけど、それによって目の前の共演者の方に対して素直に反応ができない気がして、あまり読まないですね。

石橋さんが演じている逸子は、華子(門脇麦)と美紀(水原希子)を引き合わせる重要なキャラクターですが、演じられてどんな印象を持ちましたか? 個人的には、石橋さんが演じているからか、原作よりも映画の逸子の方が好きでした。

やったあ(笑)。逸子はすごく面白い女性だなと思いました。言っていることがリベラルで偏っていなくて、でもちゃんと自身の言葉を話している感じがして。撮影している時は必死だったのであまりそういう印象はなかったんですけど、撮影から一年半くらい経って完成した作品を見て、「逸子、いいこと言っているなあ」と思いました(笑)。

例えば、華子と美紀を引き合わせる時に逸子が言う「女性を分断する価値観がまかり通っている」みたいなことって、実際にありますし。逸子の言葉をいろんな人と共有したいという気持ちになりました。今は、性差別の問題が提起されることが多いですけど、男女に限らず、女性と女性、男性と男性でも、私対あなたという関係性がある以上、いつまでも終わらない問題だなと思います。そういう意味で、「女性同士が戦わずにいれたらいいのにね」っていうのは誰に対しても言えるから、すごく大事な言葉だなと感じます。

逸子、華子、美紀の3人のシーンはセリフも展開的にも見ごたえがありました。共演された門脇さん、水原さんの印象はいかがでしたか?

お二人がそれぞれ出演されている作品を見ていて、絶対に素敵な方たちだと思っていたので、今回共演できるのがすごく楽しみだったんです。麦ちゃんは、誰に対してもフラットなので、一緒にいてとても気持ちのいい人だなあと感じました。お芝居では、どんな役をやっても深みのある人に感じられるから、ご本人が深い部分でいろんな事を思いながら物事を見ているんだなと思いましたね。

希子ちゃんは、象徴的な美しさがある人だなと思います。ご本人はとにかくハッピーな空気を纏っていて、本当に素直。あんなに見た目がおしゃれなのに、飾らない感じがさらに素敵だなと思って。2人とも話題が豊富で、それぞれ自分の趣味があって、3人とも旅が好きだったりするので、3人のシーンの撮影の時はいろんな話ができてとても楽しかったです。

映画は東京が舞台になっていますが、東京ご出身の石橋さんにとって東京はどんな街ですか?

出身地なので客観的にとらえづらいなっていつも思うんですけど……いろんなものが入り混じった場所だと思います。美しさもあるけど、同じくらい醜さもあって。人が冷たいと感じることがあっても、そうじゃない人に出会えた時はすごくうれしいし、家族も居るし、飽きることはないかなあと思いますね。だけど、東京っていう場所に縛られると苦しいなと感じます。だからこそ、旅行から帰ってくるとすごく俯瞰して見られる感じがして、そういう時に感じる東京が好きです。単純にワクワクする感じがありますね。でも、どの街に住んでもいいところだって悪いところだってあるわけだから、いい部分を見つけたいなと思っています。

東京で好きな場所、東京を感じる場所ってありますか?

車に乗っていると楽しいですね。夜、東京タワーが見えたりすると、「わーキレイ!」って思いますし。それこそ旅行を終えて、車で成田や羽田から帰ってくる時に見える東京って面白いなあと思います。いろんな建物が建っていてカオスじゃないですか。そういう時に見ると「面白い街だな」って思ったりします。

ではここからは旅のお話をお聞きします。今はなかなかできないと思いますが、これまでどんな旅をされてきましたか?

アメリカのボストンにバレエ留学をしていた時は、ダンスのワークショップを受けにボストンからニューヨークやシカゴに行ったりしました。日本に戻ってきてからは、割と一人で旅に行くのが好きで。一人で知らない街に行って、観光名所に行くというよりは、街をプラプラ歩いて、コーヒー屋さんに入って、地元の人の気分になる、みたいな旅が好きですね。

その土地の人と積極的に交流する方ですか?

場所によります。キューバに行った時は、おじいちゃんから子どもまでいろんな人が話しかけてくるんですよ。誰も一人にさせてくれない感じがあって(笑)。そういう時はいっぱい話ができて、楽しかったですね。

旅は、計画を立てるより、思い立ったままに行く方が多いですか?

そうですね。一昨年友達とラオスに行った時は、クアンシーの滝っていうエメラルドグリーンと乳白色の段々畑みたいになっている滝があるんですけど、テレビで見てそこには絶対に行きたいと思って行きました。決めたのはそれぐらいで、あとは地元の人にどこがいいとか聞いたり、プラプラ歩いたり、そういうあまり頑張らない旅が好きです。

また自由に旅ができる日が来たら、どんな旅がしたいですか? 例えば30代や40代になったころにやってみたい旅とか。

30代40代になったら、基本はラフな旅をしたいけど、素敵なホテルに泊まってみるとか、ポイントポイントで贅沢ができたらいいなと思いますね。あと、スイスとかで、山を何日もかけて巡る電車があると思うんですけど、それはいつか絶対行ってみたいです。

では最後に、旅に行きたくなる映画や本を教えてください。

映画だと『イントゥ・ザ・ワイルド』ですね。ただ楽しいだけじゃない、リスクや緊張する瞬間もあるような、自分が何か新しいものを発見できるような、そんな旅をしたくなる作品だなと思います。

本だと、一番好きなのは『アルケミスト』。旅って、知らない国に行くことだけじゃなくて、自分が今いる場所から変わりたいと思って、決意をして、それを行動に移すことで違う景色が見えることだと思って。それは必ずしも、場所が変わらなきゃいけないわけじゃなくて。自分が違う景色を見たいと思った瞬間から、世界が変わって見える気がするし、そういうことを教えてくれる作品だと思います。人に会って、その人が見ている景色を知ることも、ある意味旅。そういう、広い意味でも旅は面白いよっていうことを教えてくれる気がするので、好きですね。

石橋静河さんが旅に行きたくなる映画&本

『イントゥ・ザ・ワイルド』

『イントゥ・ザ・ワイルド』

ジャーナリストで登山家のジョン・クラカワーによるノンフィクション「荒野へ」を、ショーン・ペン監督が映画化した2007年の作品。裕福な家庭に育ち、将来有望だった22歳の青年が、すべてを捨てて旅立ち、2年間の放浪の果てにアラスカで最期を迎えるに至った、壮大な旅路を描く。
『アルケミスト 夢を旅した少年』

『アルケミスト 夢を旅した少年』

パウロ・コエーリョ/著
616円/KADOKAWA/角川文庫

81か国語に翻訳されている世界的ベストセラー小説。ピラミッドに隠されているという宝物を求めて旅に出た羊飼いの少年が、さまざまな出会いと別れを経験しながら人生の知恵を学んでいく。そんな少年の旅を通して、人生の本当に大切なものを教えてくれる物語。
INFORMATION
『あのこは貴族』

『あのこは貴族』

2021年2月26日(金)より全国公開

『アズミ・ハルコは行方不明』(2016年)、『ここは退屈迎えに来て』(2018年)など、著書の映像化が続く作家・山内マリコの同名小説を映画化したシスターフッドムービー。東京の上流家庭で生まれ育った箱入り娘の華子(門脇麦)と、地方から上京し自力で仕事を見つけ一人生き抜く美紀(水原希子)。異なる境遇を生きる2人が、弁護士・幸一郎(高良健吾)の存在によって引き合わされたことで、それぞれが思いもよらぬ人生を切り開いていく。

監督・脚本:岨手由貴子
出演:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、銀粉蝶ほか
配給:東京テアトル、バンダイナムコアーツ

Profile
石橋静河
石橋静河Shizuka Ishibashi

1994年生まれ、東京都出身。15歳から4年間のバレエ留学後、コンテンポラリーダンサーとして活動。2015年から役者としても活動を開始し、初主演作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)で第60回ブルーリボン賞をはじめ多くの新人賞を受賞。主な出演作に、映画『きみの鳥はうたえる』(2018年)、『いちごの唄』(2019年)、『人数の町』(2020年)、『ばるぼら』(2020年)、ドラマ『東京ラブストーリー』(2020年/FOD・Amazon Prime Video)、『この恋あたためますか』(2020年/TBS)、舞台『神の子』(2020年)など。

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