渋沢栄一の77歳を祝って建てられた「誠之堂」。
儒教の代表的な経典のひとつ「中庸」の一節から名付けられた
テーマのある旅 渋沢栄一を知る旅
“日本の礎”を築いた人物 渋沢栄一を知る旅

“日本の礎”を築いた人物 渋沢栄一を知る旅

2月14日から始まる、NHK大河ドラマ『青天を()け』の主人公・渋沢栄一。彼は約500の企業の設立と約600の社会公共事業に関わり、日本の資本主義の発展に大きく貢献をした人物です。そんな今注目の渋沢栄一について知りながら、ゆかりの地をめぐる旅に出かけましょう。
文/松尾好江(ランズ)

渋沢栄一をおさらい

血洗島(ちあらいじま)村(現在の埼玉県深谷市)の農家に生まれ、幼いころから家業の藍玉(藍の葉の染料を固めたもの)の製造・販売や養蚕を手伝っていました。27歳の頃に徳川慶喜の弟・昭武に随行し、パリ万国博覧会を見学。帰国後に日本で最初の合本(株式)組織を設立し、明治政府へ出仕。大蔵省を退職後、経済人として数々の功績を残しました。深谷市にある「渋沢栄一記念館」には多くの写真や資料が展示されています。2024年に一新される1万円札の肖像にも決定しています。
渋沢栄一記念館
誠之堂
誠之堂は、平成15(2003)年に、国の重要文化財に指定された
埼玉県深谷市

Spot01 誠之堂

喜寿(77歳)を祝い建築したという
趣向を凝らした記念堂

渋沢栄一は、明治6(1873)年、日本で最初の銀行とされる「第一国立銀行」(現みずほ銀行)を設立しました。その後、明治29(1896)年に「第一銀行」となり、初代頭取を務め、喜寿(77歳)を迎えるのを機に頭取を退任。同行の行員たちの出資により、喜寿のお祝いとして東京・世田谷区にあった保養地に「誠之堂(せいしどう)」が建築されました。こうした行員たちの行動から、渋沢が慕われていたことがうかがえます。その後、平成11(1999)年に深谷市に移築されました。
深谷市で生産されたレンガを使った外観は、イギリスの農家をイメージしています。また内観の装飾には、中国などの東洋的な意匠を取り入れており、大正時代の美意識を感じられます。

誠之堂 住所/埼玉県深谷市起会110-1(大寄公民館敷地内)
営業時間/9:00~17:00(入館は16:30まで)
休/年末年始
アクセス/電車:JR高崎線、湘南新宿ライン深谷駅からタクシーで約15分、車:深谷バイパス上武ICから約15分
電話/048-577-4501(深谷市教育委員会文化振興課)

誠之堂
大広間の窓には6面にわたり、中国・漢の時代の「画像石」の図柄を模したステンドグラスがはめ込まれている
誠之堂
誠之堂の中心の大広間。設計者は当時、建築界の第一人者だった田辺淳吉氏
誠之堂
大広間の暖炉の上には、渋沢栄一の肖像レリーフが飾られている
青淵 -Ao-
銀行だった建物をリノベーションして作られた「K5」。
K5は街の活性化を目的に、ホテルをはじめ、レストランやカフェなどが揃っている
青淵 -Ao-
ブレンドティー「Good Break」(880円)。カフェインの少ない熟成番茶をベースに、生姜、シナモンを加えたブレンドティー
青淵 -Ao-
カクテル「Mid-day Spritz」(1,320円)。渋沢が帰郷した際に寝泊まりした「中の家(なかんち)」から「Mid」と名付けられた
東京都中央区

Spot02 青淵 -Ao-

渋沢の書室をイメージしたサロン

渋沢栄一が「第一国立銀行」を開業し、銀行発祥の地といわれる日本橋・兜町に、令和2(2020)年2月にオープンした複合施設「K5」。このビルは、第一国立銀行の別館として大正12(1923)年に建設されました。
当時、渋沢の書斎・執務室だった場所である、K5の1階には、真っ赤な絨毯やソファーが印象的な図書館とバーが一体になったサロン「青淵 -Ao-」があります。ドリンクや本から渋沢の夢を追想できるというコンセプト。家業の藍問屋を手伝っていた10代前半までをイメージしたカクテル「Mid-day Spritz」は、水出しのほうじ茶をベースにウォッカ・松脂を使ったワインを少し使い、きび糖による甘さを加え炭酸で割ったもの。日中はティーサロンとしても営業しています。

青淵 -Ao- 住所/東京都中央区日本橋兜町3-5 K5ビル 1F
営業時間/平日:17:00~LO 25:00、土曜日:15:00~LO 25:00、日・祝日:15:00~LO 23:00
休/不定休
アクセス/電車:東京メトロ東西線、日比谷線茅場町駅から徒歩約5分
電話/03-5962-3485(K5)

青淵 -Ao-
壁や床は赤を基調としたクラシックな雰囲気。店全体を囲む本棚には、渋沢やこの地の歴史書をはじめ、アジアや日本などに関する本が並ぶ
富岡製糸場
国宝の東置繭所。長さ約104mで繭を貯蔵しておく倉庫として建てられた
群馬県富岡市

Spot03 富岡製糸場

日本初の官営模範器械製糸場を設立

平成26(2014)年に、「富岡製糸場と絹産業遺産群」として世界文化遺産に登録された「富岡製糸場」。この設立も、渋沢栄一が関わっています。渋沢は、明治政府の大蔵省租税正担当として、設立に向けた計画や調整に関わっていました。彼が任命されたのは、農家出身で蚕を育てることや蚕の卵に詳しかったからだといわれています。また、渋沢のいとこであり明治政府の役人だった尾高惇忠が工場建設の指揮を執り、韮塚直次郎が資材調達を担い、富岡製糸場の設立に尽力しました。
明治5年、富岡製糸場は、輸出品だった生糸の品質向上と増産のため、明治政府により官営として設立。官営の模範工場として、日本各地に器械製糸技術を伝え、世界的な絹産業の革新に貢献しました。また、フランス人の指導者ポール・ブリュナらの力も借りることで、西洋の技術を取り入れた富岡製糸場を設立したのです。

富岡製糸場 住所/群馬県富岡市富岡1-1
営業時間/9:00~17:00(入場は16:30まで)
料金/1,000円
休/12月29日~31日
アクセス/電車:上信電鉄上州富岡駅から徒歩約15分、車:上信越自動車道富岡ICから約10分
電話/0274-67-0075(場内総合案内所)

富岡製糸場
木材で骨組み、煉瓦で壁を積み上げて造る「木骨煉瓦造」という西洋の建築方法。この積み方は「フランス積み」と呼ばれる
富岡製糸場
国宝の繰糸所。長さ約140mで、創業当時フランスから300釜の繰糸器が輸入され、当時世界最大規模の製糸工場として稼働を始めた
富岡製糸場
明治13(1880)年、韮塚直次郎が官営富岡製糸場の完成を謝恩するために永明稲荷神社(深谷市田谷)に奉納した「富岡製糸場図大絵馬」
提供:渋沢栄一記念館
麺屋忠兵衛
古民家を活用した店舗は趣がある
埼玉県深谷市

Spot04 麺屋忠兵衛

麺屋忠兵衛
ボリューミーな煮ぼうとう
とろろご飯セット(1100円)
麺屋忠兵衛
幅広の麺が特徴
麺屋忠兵衛
運営会社の新吉では、
「つゆ付煮ぼうとう(なま)」などの
麺を購入できる

好んで食べた郷土料理・煮ぼうとうを

深谷市の郷土料理で、渋沢栄一も好んで食べたといわれている「煮ぼうとう」。煮ぼうとうは、深谷ねぎや地元で獲れる野菜などといっしょに幅2.5cm、厚さ1.5mmの幅広の麺を生麺の状態から煮込み、醤油で味を付ける深谷市の冬の定番料理です。渋沢の命日である11月11日には、学校給食にも出されるといいます。
令和2(2020)年1月、渋沢の生家「中の家」の隣に古民家を活用した「麺屋忠兵衛」がオープン。野菜たっぷりでとろみのある煮ぼうとうを食べれば、体をぽかぽかに温めてくれます。店内は畳敷きで、和の空間を楽しみながらいただけます。床の間には、渋沢が麺屋忠兵衛の当主の祖先に贈った直筆の書が掛けられています。運営している新吉は、製麺業を行っているので、市内の店舗で生麺を買っていくのもおすすめです。

麺屋忠兵衛 住所/埼玉県深谷市血洗島247-1
営業時間/11:30~14:00
休/年末年始
アクセス/電車:JR高崎線、湘南新宿ライン深谷駅からタクシーで約20分、車:深谷バイパス上武ICから約15分
電話/048-598-2410