女優 松本穂香
“この映画を見て池袋に行ってみる、
誰かにとって
そういう作品になったらすごいな”
アニメーション映画『君は彼方』で
主人公の声優を務める松本穂香さん。
声によるお芝居の楽しさや難しさ、
舞台となった池袋でのエピソード、
旅の思い出なども語ってくれました。
取材・文/小林未亜(エンターバンク)
撮影/島本絵梨佳
ヘアメイク/倉田明美
スタイリング/有咲

映画『君は彼方』は、松本さん演じる高校生の澪(みお)が、諦めがちで自信のない自分を変えようともがく姿が、不思議な世界を舞台に描かれています。まず、完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

台本を一通り読み込んでお芝居させていただいたんですが、できあがったものを見て初めて、「こういうことを伝えたい映画だったんだ」というのがすごくわかったといいますか。いろんな予想を裏切って、前半のテンションが嘘だったみたいに後半は絶望が描かれていたり、ファンタジーの中にも「人ってこうだよな」と思う生々しいリアル感みたいなものが斬新に描かれていて、いろんな楽しさがある作品だなと思いました。

澪はずっと自分のことをダメな人間だと思い込んで生きて来たと思うんです。映画のポスターにも「変わる」と書いてあるんですけど、変わるだけではなくて、元々本人が持っているものを発揮していくと私は思っていて。誰かを大切に思う気持ちだったり、何かを好きになることによって、本来の自分を知っていくことが描かれているんじゃないかなと思います。

松本さんにとってアニメーションの声優は本作が2作目となりますが、普段のお芝居とはどんなところが違いますか?

普段のお芝居はどうしても外見を変えるのには限界がありますし、自分から出てくるものしかないと感じているんですが、(アニメは)見た目も何もかも違うので、まるっきり別人になりきれる感覚というのは楽しかったですね。

役者さんでも声だけでお芝居するのは難しいと聞きますが、難しさはあまり感じませんでしたか?

感じました。意識して声を出さないと、アニメの画にのっかりづらくて浮いてしまうというお話を監督からも聞いていたので、いつもとは少し違う声の出し方ではあったと思うんです。ただ、監督が「松本さんには役者さんができる間の取り方やセリフのテンポ感を大事にしてもらいたいので、そこまで画の口に合わせようと気にせずに、思うお芝居をやっていただきたい」と言ってくださっていたので、そこに対しての不安な気持ちはなく臨むことができました。

役作りなど、何か準備されたことはありましたか?

収録前に監督とリハーサルみたいなものを一対一でさせていただいて、監督の思いや、澪ってこういう人だよね、というお話はしました。元々私も澪のように、自分に自信を持てなくて、すぐ諦めてしまうようなところはあって。高校時代などは特に感じていたものだったりするので、共感できる部分もありました。話していくうちに、自然と役作りができていたのかなと思います。

共演者の方と作品や役に対して話し合ったりはされましたか?

瀬戸(利樹)さんとは初対面で幼なじみの役(新役)なので、収録前に監督の演出で即興芝居のエチュードを二人でやったり、お昼時間には一緒にお弁当を食べたりしました。「何が好きなんですか?」とか、本当に初対面の人同士の会話をしたりして(笑)。話しやすくて、ナチュラルな方なので、自然と距離は近づけたかなと思いますね。

声優の方々がとても豪華ですが、見ていて印象的だった方は?

森おばあちゃんを演じた夏木マリさんは、声だけであの包み込む優しさを表現できるところはすごいなと思いました。(澪の母親役の)仙道(敦子)さんも夏木さんも、監督が言う「役者さんにしか表現できない、セリフの言い回しや間の取り方」になっていて、すごく面白いなと思いました。声優さんとは違うだろうなということは感じましたね。

本作は池袋が舞台になっていることも特徴ですが、池袋に思い入れはありますか?

あまり行ったことはないんですが、好きなドラマ『池袋ウエストゲートパーク』の舞台だったので、池袋に行って「ここが舞台になったところなんだ」と思ったことがあって。なので、今回この映画を見て、誰かにとってそういう作品になったらすごいなというのは感じましたね。

映画には池袋の実在のスポットがいくつか出てきますが、実際に行った場所はありましたか?

サンシャイン水族館は収録前に一人で行きました。澪の好きな場所だったので、行ったことないし見ておきたいなと思って行きました。(アフレコするにあたり)自信につながりました。

澪が迷い込む世界“世の境”は、その人の“思い出”がモチーフになっていました。澪の場合は池袋でしたが、松本さんだったらどこでしょうか?

やっぱり地元の大阪ですね。学生時代ずっと大阪で過ごしてました。

地元で思い入れのある場所といえば?

最寄り駅のパン屋さんとかショッピングモールにはよく行っていました。

ちなみに、旅行はよくされますか?

好きですが、あまり行けるタイミングがなくて、全然してないですね。お仕事で行くぐらいです。最近は京都に撮影のお仕事で行っていて、やっぱりいいなと思いました。お仕事で行っている時は観光もあまりしないので、プライベートでまた行きたいなと思います。

これまでに行って思い出に残っている場所というと?

広島ですね。(『この世界の片隅に』の)役のために行かせていただいたんですが、戦争の歴史であったり、実際体験された方に直接お話を聞けたりする機会があったので、すごく印象に残っています。広島焼きをいただいて、とてもおいしかったです。

では、今後行ってみたいと思う場所はどこでしょう。

東北の、福島に行きたいですね。福島出身の女の子の役(『ひよっこ』)をやったことがあるんですが、私自身はまだ行けたことがないので。小名浜あたりに行ってみたいなと思いますね。海外なら、オーロラは一生に一回は見てみたいなと思っています。寒いところに行きたいです。寒い方が苦手なんですが、なんとなく旅先では暑いより寒い方がいいなあって(笑)。

いつか、福島やオーロラを見に行った思い出を聞かせていただきたいです。ありがとうございました!

松本穂香さんが旅に行きたくなる映画

『耳をすませば』

『耳をすませば』

DVD2枚組5,170円/Blu-ray7,480円 発売中
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン

中学生の男女の恋や成長、心の変化を繊細に描いた、1995年のスタジオジブリ作品。「(旅に行きたくなる映画は)ジブリ全般。ジブリの世界に行きたくなるし、自然に触れたくなる。トトロの世界に行きたいってずっと思っています(笑)」という松本さんにとって、ジブリ作品のなかでも一番好きだというのがこの作品。「『耳をすませば』の舞台になった聖蹟桜ヶ丘には一人で行ったりしましたね」(松本)。
INFORMATION
『君は彼方』©「君は彼方」製作委員会

『君は彼方』

2020年11月27日(金)より
TOHOシネマズ池袋ほか全国ロードショー

芸術、映画、マンガ・アニメーションの街としての魅力が増し続けている豊島区・池袋を舞台にした青春ファンタジー。諦めがちで努力が苦手な高校2年生の澪は、微妙な関係を続けていた幼なじみの新と向き合おうとした矢先、交通事故に遭ってしまう。意識を取り戻した澪が迷い込んだのは、見慣れた池袋の街並みによく似た“世の境”。そこで出会ったガイドのギーモンと謎の女の子・菊ちゃんと共に、新の元へ帰るための唯一の手段である、思い出の中の“大切な忘れ物”をたどることに。

監督・原作・脚本:瀬名快伸
声の出演:松本穂香、瀬戸利樹、土屋アンナ、早見沙織、山寺宏一、大谷育江、木本武宏(TKO)、瀬名快伸、小倉唯、仙道敦子、竹中直人、夏木マリほか
配給:エレファントハウス、ラビットハウス

Profile
松本穂香
松本穂香Honoka Matsumoto

1997年2月5日生まれ、大阪府出身。2015年に主演短編映画『MY NAME』でデビュー。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017年)、主演ドラマ『この世界の片隅に』(2018年/TBS)で注目を集める。2019年に『おいしい家族』で長編映画初主演を果たし、続く主演映画『わたしは光をにぎっている』も公開。2020年も『酔うと化け物になる父がつらい』、『君が世界のはじまり』、『みをつくし料理帖』と主演作が続いた。声優初挑戦は、湯浅政明監督の劇場アニメ『きみと、波にのれたら』(2019年)。アートブックコレクション・アクトレス『松本穂香×川島小鳥 ジェラートってなに?』(小学館刊)が発売中。

あの人の旅カルチャー

今月のテーマ「音楽」 「音楽」をテーマに本と映画の“目利き”が作品をセレクト。
クラシックやビートルズなど“音楽の世界”に誘う名作が集結。

Book

  • 『蜜蜂と遠雷』(上・下)

    『蜜蜂と遠雷』(上・下)
    出場年齢制限ぎりぎりの男、NYの名門音楽院の青年、かつてのカリスマ少女、そして謎の少年……。日本開催の国際ピアノコンクールでそれぞれのドラマの幕が開きます。彼らは「旅人」でもあるんだな、と気づきました。外国人のみならず日本人出場者にとっても、なじみのない町に行き、コンディションを整え、未知の景色に飛び込む―これは「旅」の真髄。本屋大賞と直木賞、W受賞の感動作。
    恩田陸/著
    各803円/幻冬舎文庫
  • 『音楽家の食卓』

    『音楽家の食卓』
    ドイツレストラン「ツム・アインホルン」のシェフ・野田さんは大の音楽好きで、本書は作曲家たちのエピソードを料理とともに紹介。青年時代のバッハを救った塩漬けニシン、子供の頃からビールを飲んでいたモーツァルト、仲間に料理を振る舞いながらもレシピを秘密にしていたシューベルトとその理由など、大音楽家の食生活から時代や人間性が見えてきます。六本木にある野田さんのお店にもぜひどうぞ!
    野田浩資/著
    2,860円/誠文堂新光社
  • 『日本JAZZ地図』

    『日本JAZZ地図』
    ひたすらジャズを聴くことを目的とした「ジャズ喫茶」が日本特有の文化だってご存知でしたか? この本は全国69の名店のビジュアルインタビュー集。音と珈琲の香りが漂ってくる写真と、やわらかに語られる店主の音楽観、人生観が素晴らしい! あのミステリー作家のお兄さんが経営する佐賀の有名店や、大阪・鶴見の主婦が始めたお店、津軽海峡を望む町の一軒など、ここを目当てに旅したくなる1冊です。
    常田カオル/文 谷川真紀子/写真 散歩の達人POCKET編集部/編
    1,760円/交通新聞社
間室道子さん 代官山 蔦屋書店

代官山 蔦屋書店に勤める文学担当のコンシェルジュ。雑誌「婦人画報」の連載を持つなど、さまざまなメディアでオススメの本を紹介するカリスマ書店員。文庫解説も手掛け、書評家としても活躍中。

Movie

  • 『ベイビー・ドライバー』

    『ベイビー・ドライバー』
    強盗チームのドライバー・ベイビーを主人公にしたラブロマンス&カーアクション。エレベーターの開閉音や車のセンサー音といった私達の日常に流れる音と、ベイビーのつけているイヤホンから流れる音楽、そしてベイビーの行動のすべてが合わさり、シンクロします。冒頭からラストまで全編に渡り“音ハメ”を実現させた、歴史的な快挙を遂げたとも言える映画で、ミニバッグに持ち物がピッタリ収納できた時のようなフィット感。これ、伝わりますか?(笑)。とにかく音楽がもたらす快感を味わえる作品です。
    Blu-ray2,619円/DVD2,075円 発売中 発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
  • 『イエスタデイ』

    『イエスタデイ』
    ビートルズが存在していない世界で、売れないミュージシャンがビートルズの歌をうたって人気者になっていく姿を追う、奇抜な設定が話題になった音楽コメディー。何度聴いても胸打つビートルズの曲の素晴らしさを再確認。いまどきiTunesに音楽はあふれているけれど、今後の人生でも長く付き合っていきたい楽曲について考えるきっかけに。日本でも人気のエド・シーランが本人役で出演しており、業界の裏側が覗けるのも見どころ。そして、最後に。ビートルズの曲が存在しない人生は寂しすぎる!
    Blu-ray2,075円/DVD1,572円 11月27日発売 発売元・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
  • 『坂道のアポロン』

    『坂道のアポロン』
    音楽は人の心を繋げる大切な立役者。軸となるのは歯がゆい初恋、一生の友情、そしてジャズミュージック。音楽を演奏したことがなくても、誰もが映画を通して"あの頃"を振り返って、心地よくノスタルジーに浸れる王道の青春映画です。1966年の異国情緒あふれる佐世保を舞台にしていますが、時代は変われど、人間にとって大事なモノって普遍的なものだと伝わってきて、じんわり。そして圧巻なのは文化祭のセッション! 俳優たちは吹き替えなしで演奏していて、ダイレクトに心に響きます。
    豪華版Blu-ray7,480円/豪華版DVD6,380円/通常版DVD4,180円 発売中 発売元:アスミック・エース/小学館 販売元:東宝
東 紗友美さん 映画ソムリエ

映画ソムリエとして、テレビ・ラジオ番組での映画解説や、映画コラムの執筆、映画イベントのMCなど幅広く活躍。映画ロケ地巡りも好き。日経電子版で「映画ソムリエ 東紗友美の学び舎映画館」を連載中。

※価格はすべて税込みです