映画『浅田家!』は、浅田さんのご家族が消防士やヒーローなどに扮した写真集「浅田家」と、東日本大震災の津波で泥だらけになった写真を洗って返却する“写真洗浄”ボランティアの方々を撮影した「アルバムのチカラ」が原案となっています。まずは、映画化の話を聞いた時のお気持ちを教えてください。
10年前くらいにお話をいただいたんです。写真集が原案の映画なんて聞いたことないですし、夢みたいな話だなと思いながらも「まあ、(映画には)ならないだろうな」と当初は思っていました。それがこんな大きな映画になってびっくりしています。
写真集を映画化するにあたって、映画スタッフの方たちから取材を受けましたか?
最初は、監督とプロデューサーと脚本家が、僕にインタビューというか、ごはんを食べながらお話をさせていただくところからスタートしました。映画になることをイメージした時、映画として面白く見せるために、事実とかけ離れていても僕はいいと思っていたし、そうなるだろうと勝手に思っていたんです。だから写真集が原案ではありますけど、煮るなり焼くなり好きにしていただいて、いい映画を作っていただければうれしいと思いました。
ですが、家族にもインタビューしてくださったり、僕が撮影したご家族にも取材をしていただいたり。また、僕は岩手県の野田村の写真洗浄に携わっていたのですが、そのボランティアメンバーにも直接会って話をしてくださったり。いろんな取材を重ねて作られていったので、当初思っていたのとちょっと違って、事実というか、僕が出会った方たちのことが映画にも描かれています。
浅田さんの物語が映画にしっかり落とし込まれているんですね。
妻と出会った時期やラストで描かれるご家族の話など、フィクションの部分もありますけどね。でも、父が赤いエプロンをして料理を作っていたり、家の周りが骨董であふれていたり、随所にそういったディテールが再現されているんです。フィクションとノンフィクションがすごく絶妙なバランスで入り混じっているので、僕から見ると、ある光景が思い出されたりする場面は多いですね。
浅田さんの役を二宮和也さんが演じられると聞いた時はどんなお気持ちでしたか?
信じられなかったです(笑)。誰もが知っている二宮さんのお名前が出てくるなんて想像もしていませんでした。でも、家族の雰囲気を見るために二宮さんが僕の実家に来てくれて、“二宮さんが実家にいる”という不思議な体験をしたことで、初めて実感が湧きましたね。
役作りのために、二宮さんからはどのようなアプローチがあったんですか?
「あの時はどういう気持ちだったんですか?」とか「写真のどこがいいですか?」とか、そういった(直接的な)アプローチはありませんでした。だから、あまりしゃべってないけど大丈夫かな、伝わっているかな、もっと僕が説明した方がいいのかなとか、その時はちょっと分からなくて。でも最近、二宮さんのインタビュー記事をいくつか読んで「なるほど」と思いました。家族の会話の仕方や家族との距離感、家族の中で僕がどういう風に立ち振る舞っているのかとか、そういったところから政志という人物像を捉えていたと書いてあって。僕が家族とやり取りしているところをつぶさに見ていただいたんだなとわかりました。
完成した作品はご家族でご覧になったんですよね。
三重から全員来てくれて、家族9人で横一列になって見させていただきました。みんな気の利いたコメントはできていなかったけど(笑)、すごくいろんなことを感じたと思います。やっぱり一生に一回しかない特別な体験ですから。家族で並んで映画を見ている時は、言葉では言い表せないような、不思議で、とても幸せな時間でしたね。
お子さんは、自分たち家族の映画だと分かっていましたか?
6歳なので分かってはいるんですけど、このありえなさは分かっていないと思います。ドラえもん映画を見に行く感じのノリでした(笑)。でも、今6歳の子が、成人になった時にどういう見え方になっているのかは楽しみです。映画も写真も、時間が経っても残っていくものだと思いますし、年代によって見え方が変わると思うんですよね。僕が父親の年になった時にも、また違う見え方になると思いますし。そういった長い付き合いができたらいいなと思います。浅田家にとってはこれからもずっと続く映画なので、一年に一回は必ず上映会をすると思います(笑)。
撮影現場にもいらっしゃったと思いますが、現場で見ていて感情がこみ上げるような場面はありましたか?
僕だけじゃなくて、家族みんなが口をそろえて言うのは、消防署のシーンですね。うちの父親を演じる平田(満)さんを初めて見たのがそのシーンで。消防士の服を着て歩いてきた時の平田さんがうちの父親にかなり似ていて。みんなで遠目に見ていたんですけど、全員、平田さんがうちの父親に見えていたみたいです。今、父親は車椅子の生活をしていてあまり家から出ないので、元気に歩いている姿を久しぶりに見たような感じで、兄ちゃんの奥さんは涙ぐんでいたり。映画の現場で感極まったシーンでしたね。
ほかに、映画を見て印象的だったシーンはありましたか?
ある家族のラストシーンが一番よかったです。自分のこれからの目標になるような、自分にとってこうありたいと思う姿が描かれていたので、監督に背中を押してもらったようで、一番記憶に残っています。
どんなシーンなのか、映画を見てご確認いただきたいですね。ちなみに、映画は浅田さんの出身地である三重県津市でも撮影されています。ご自身が思う三重県の魅力とは?
三重県内でいうと魅力はたくさんあると思うんですが、津市だけに絞ると、住宅街なのでいわゆる観光地じゃないんですよね。もちろんおいしい食べ物はいっぱいありますけど、一番は生まれ育ったふるさととして代えがたい場所だということ。名古屋から近鉄電車に乗って、景色がどんどん津に近づいてくると、どこに行っても味わえないようなホッとする気持ちになれます。素晴らしい景色は他の街にもいっぱいありますけど、津市でしか味わえない何かがあって。若い時は早く出ていきたくてしょうがなかったタイプですけど、今では津市にいることが何より幸せだなって思うようになりました。
では最後に、浅田さんにとって「旅に行きたくなる作品」を教えてください。
入江泰吉さんという写真家の写真集ですね。奈良県ご出身で、奈良の昔の大和路の風景を撮っていらっしゃった方なんですけど、その写真が本当に素敵です。今の写真家の方はいろんな写真を撮りますけど、入江泰吉さんは自分のふるさとである大和路の風景を一生撮り求めた方。風景に語ってもらうような写真で、見れば見るほどその良さが伝わってきて、すごく好きです。