島根を流れる清流・高津川の流域に暮らす人々の日常を描いた、映画『高津川』。まずはオファーを受けた時のお気持ちを教えてください。
台本を読んだ時、本当に川の水のようにすーっと染み込んでいくような印象を受けて、ぜひこの作品の一員になりたいと思いました。すごくドラマチックなことが起きるわけではないのですが、映像化されると、神楽のシーンがすごく盛り上がっていたり、私の想像以上に衝撃的な作品になりました。自然もすごく雄弁に語ってくれているので、とにかく私たちはいかにあの土地に住んでいる人に見えるか、馴染めるかというのが課題でしたね。
土地に馴染むために、特別にされたことはありましたか?
日本海に夕日が沈む風景が美しかったり、川の水もきれいで。自分の原風景というか、私たちのふるさとそのものみたいなところだったので、そこにいるだけですーっとそういう気持ちになりました。助けてもらいましたね、自然の力に。
あと、(島根県の)益田の方たちがみなさん温かくて。エキストラを募集したら建物の外まで行列ができていて、小学生の女の子も「高津川のきれいさを全国の方に知ってもらいたいから来た」と言って並んでくれたみたいです。みなさん、愛があるんだなと思いました。高津川を誇りに思って生きていらっしゃるから、お話をしていてもすごくポジティブなんです。きっと満たされていらっしゃるんだなと思いました。
撮影中、地元の方とも交流されましたか?
たくさんしました! エキストラさんの演技のうまさにびっくりで。私のセリフに対してちゃんと受けたお芝居をしてくれたりして、ナチュラルですっごく上手なんです。みなさん長い撮影にもずっと付き合って、何回もやってくださいました。本当に感謝しています。この映画は、みんなで一丸となって作った感じですね。神楽の方たちも協力してくださって、中打ち上げで私たちのためだけにサプライズで舞ってくださったんですけど、感動して涙が出ました。
劇中、役者のみなさんが地元の言葉をしゃべっていたのも印象的でしたが、戸田さんは広島のご出身ですよね。
そうです。益田は広島の方が移り住んでいたりもするみたいで、ほぼ広島弁でいいと言われて、本当にいいのかな?と思いながら演じました。私は広島弁寄りで、(岡山県出身の)甲本さんは岡山弁寄りだったかもしれません(笑)。今回の撮影では、方言指導も付けなかったんです。付けてセリフ調になってしまうより、思いが伝わった方がいいと監督も仰るので、自由にやらせていただきました。でも、地元のエキストラさんたちに「おかしくないですか?」、「大丈夫」「いや、こういう風に言ったらもっといい」とか、その都度確認しながらできたのが有難かったですね。
いい関係性ですね。元々高津川周辺に思い入れはあったんですか?
益田に行ったのは初めてで、実は高津川の存在も知らなかったんです。今回、撮影に伺って、こんなにいいところがあったんだ、と思いました。鮎もおいしいし、水がきれいだからコーヒーもすごくおいしいお店があるんですよ。両親に教えたら、さっそく行ったみたいです。広島の景色ともまた違って、本当にいいところ。夕陽も圧倒的にきれいで、時間がゆっくり流れているし、土も元気だから野菜もおいしくて、イタリアンもおいしいお店がありましたね。いろいろ行きました、一人でもふらっと。
撮影の時は、いつもその土地を見て回ったりするんですか?
ホテルにこもっているタイプではなく、せっかくだからと思って出かけますね。私、おいしいお店をくんくんってかぎ分けるのが上手だと思います(笑)。ちょっと入りにくそうなお店にも入ります、勇気を出して。カウンター割烹みたいなお店や、バー、喫茶店とか。
この映画を見て、高津川に行ってみたいと感じる方も多そうですよね。戸田さんご自身は、これまでに見て「旅に出たい」と思った映画はありますか?
いっぱいありすぎます。すごく印象的だったのは『男と女』というフランス映画ですね。母が好きだったこともあって、すごく憧れていました。19歳の時に初めてフランスに行ったんですけど、『男と女』の撮影をしたノルマンディーのドーヴィル海岸に行けた時に、母も喜んでいたし、私もすごく感動したのを覚えています。大学でフランス語専攻だったので、10代・20代前半はもうフランスかぶれで、家のインテリアもそれっぽくしたりしていました。
京都や沖縄も好きですし、大好きなところはいっぱいあるんですけど、行くと自分がそれっぽくなっちゃうんです。
けっこう影響されやすいのですか?
すごく(笑)! 旅人だけど、そこに住んでいる人みたいに振舞いたいと思っていて。パリでもキッチン付きのところに滞在したりして、住んでいるように過ごしたこともあります。旅をすると、いろいろ憧れが湧きますよね。パリは大人がかっこいいですし。
プライベートでもよく旅行はされるんですね。
大好きで、年に何回も行きます。雪がもう大大大好きで、この間も家族で(新潟の)南魚沼に行ってきました。国境の長いトンネルを抜けたら雪が深くなっていて、本当に川端康成の『雪国』の世界だ! と思いました。
旅先はどのように決めていますか?
気分かな(笑)? 冬だったら雪が見たいと思うし、夏だと思いっきり夏を感じたいと思うので、そういう場所を選んだり。あとは、自分に何か物足りないなと思ったら、ヨーロッパの文化に触れに行きたいと思ったりする時もあります。今は子育て中なので、ふらっとは行けないんですけどね。
では最後に、戸田さんなりの旅を楽しむポイントを教えてください。
旅行者として訪れるだけじゃなくて、息遣いやいろんな息吹を感じたいと思います。商店街に行ってみたり、勇気を出して地元の方が多いお店に入ってみたり。その方が、方言が聞けたり、土地の文化に深く触れられるので、新鮮な感動がありますね!