あの人の旅カルチャー

作家 夏帆
“まとまった休みがとれたら
旅へ出ようと心がけています”
恋愛映画『Red』に主演する夏帆さん。
「今までにない役」に挑戦する不安や期待、
雪景色が印象的なロケ地・新潟での思い出、
さらにはご自身の旅事情も伺いました。
取材・文/小林未亜
撮影/山下陽子
ヘアメイク/石川奈緒記
スタイリング/清水奈緒美

夏帆さんも出演された『ビブリア古書堂の事件手帖』などを手がけた三島有紀子監督が、大人の恋愛小説を映画化した『Red』。オファーを受けた時はどのようなお気持ちでしたか?

過去にお仕事をご一緒させていただいた三島さんが、今回この題材で、しかも主演でオファーをしてくださったことがとてもうれしかったです。オファーをいただいた時に、三島さんの覚悟を感じて、その思いに応えたいと思いお受けしました。これから30代に向けて、大人の役も演じていけるようになりたいと考えていたタイミングでもあって。

ただ、塔子という役を、果たして今の私が演じきれるのかというプレッシャーや不安はものすごく感じました。でも、三島さんをはじめ、信頼している方たちが集まっているので、この作品だったらまた新しい何かができるんじゃないかという期待もありました。

夏帆さん演じる塔子に関わるのが、かつて愛した男・鞍田(妻夫木聡)、同僚の小鷹(柄本佑)、夫の真(間宮祥太朗)といった3人の男性たち。それぞれの方との共演にあたって、ご自身でプランを立てられましたか?

塔子は、一緒にいる男性によって違う顔を見せていくんです。女の顔であったり、母の顔、妻の顔、無邪気な顔と。台本を読んだ時に、そこをきちんと表現したいと思ってどう演じていこうかと悩んでいました。でも実際現場に行ってみたら、3人とも全然違う役柄ですし、役者としても人としてもそれぞれ本当に違うタイプの方たちなので、面白いことに現場の雰囲気もがらっと変わるんですよね。だから、自然と自分の心持ちも変わるというか。今回撮影のスケジュール上、妻夫木さんとのシーンをまとめて撮って、そのあとに間宮さんとの家庭のシーンを撮るという風に完全に分かれていたこともあって、本当に別作品に来たような気持ちになるぐらいでした。だから、私だけで塔子を作り上げたというよりは、相手の役者さんに引き出していただいた感じでしたね。

恋愛映画でもあり、女性の生き方の話でもあると感じました。今回の作品を通して、夏帆さんご自身でも何か感じたことはありましたか?

家庭を持った時の、家庭と社会との両立の問題は、この役を演じるにあたって私自身もすごく考えました。なかなか簡単に答えを出せることではないと思うのですが。私も女性として生まれて、女性として生きていて、その中で自分の人生がより豊かになるにはどういうことを選択していけばいいんだろう、ということはすごく考えましたね。

観た人にとっても、自分の人生を考えさせられる作品ですよね。重要なシーンを雪深い新潟で撮影されていますが、印象的なエピソードはありますか?

新潟での撮影は、雪景色の中で塔子と鞍田がラストにかけて一緒に時間を過ごすという、この映画の中でとても大事な場面でした。ただ、実はこの年、暖冬だったので雪が少なくて、スタッフの方が違う場所から雪を集めてきてくださったりしたんです。クランクインがその新潟のロケからだったのですが、演者ともスタッフとも距離を縮めることができたので、新潟から撮影を始められたのはすごくよかったなと思いました。

新潟ではナイトシーンが多くて、日が暮れてから朝まで撮って、寝て、また現場に行ってみたいな感じだったので、ご飯を食べたり観光したりといった、新潟らしさを楽しむ時間はなかったんです。でも、今回撮影でお借りした酒造(君の井酒造)はすごく素敵なところでした。そこでオールアップだったので、実際にその酒造で作っている日本酒をふるまっていただきましたね。

今回の新潟のように、撮影でさまざまな土地を訪れていると思いますが、プライベートで旅行はされますか?

旅行は好きですね。最近、時間がある時は国内でも国外でもなるべくどこかに行こうと心がけていて。なので、まとまった休みがとれたら旅に出よう! といつも思っています。

思い出深い旅先や、これから行きたい場所はどこですか?

ニューヨークはすごく楽しかったですね。ここ3年ぐらい毎年行っているんですけど、いろんな方と出会えたり、いろんな場所に行けたり、毎回刺激をもらっています。次にまとまった時間ができたら、ヨーロッパをいろいろ回りたいなと思っています。あとは、モロッコやチェコやトルコも行ってみたいし。行ってみたい場所がたくさんありすぎて、なかなか時間が足りません(笑)。

旅に必ず持っていく物などはありますか?

本は必ず持っていくようにしますね。結果的に読めないことも多いんですけど(笑)。その時の気分で何冊かスーツケースに入れています。本は好きで、小説が多いですけど、ノンフィクションものやエッセイとか、いろいろ読みます。

例えば、「旅をしたくなる本」でオススメというと?

旅とはまた違うかもしれませんが、近藤聡乃さんがニューヨークでの暮らしを描いている「ニューヨークで考え中」というエッセイ漫画が好きです。近藤聡乃さんがすごく好きなんですよね。読んでいるとニューヨークで暮らしてみたいなと夢が膨らみます。

では「旅をしたくなる映画」ではどうでしょう?

『テルマ&ルイーズ』ですね。ロードムービーが好きなのですが、ふたりの逃避行を観ていると刹那的だけど開放感があって、自分もいろんなものを投げ捨てて旅に出たくなります。性格の全く違うふたりが旅の中で成長し強くなっていく姿が爽快です。

ありがとうございました!

夏帆さんが旅に行きたくなる本&映画

『ニューヨークで考え中』

『ニューヨークで考え中』

近藤聡乃/著
亜紀書房
1,100円

漫画やアニメーション、ドローイング、エッセイなど、幅広いジャンルの作品を国内外で発表しているアーティスト・近藤聡乃によるコミックエッセイ。2008年秋から活動拠点をニューヨークへ移した著者の、ニューヨークでの何気ない日々を、見開き2ページ、一話完結スタイルで描くシリーズ。アメリカ人との結婚や新婚生活などが描かれた第2巻も販売中。
『テルマ&ルイーズ』

『テルマ&ルイーズ』

Blu-ray2,096円/DVD1,561円
発売中
20世紀フォックス
ホーム エンターテイメント

©2017 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『グラディエーター』などで知られるリドリー・スコット監督が手掛けたロードムービー。1991年度アカデミー賞脚本賞を受賞。ドライブ旅行へ出掛けた主婦のテルマ(ジーナ・デイビス)とウエイトレスのルイーズ(スーザン・サランドン)。しかし途中のバーで襲い掛かってきた男を射殺してしまい、2人の旅は逃避行へと一変する。ブレイク前のブラッド・ピットも出演。
INFORMATION
『Red』©2020『Red』製作委員会

『Red』

センセーショナルな描写で話題を呼んだ直木賞作家・島本理生の原作を、『幼な子われらに生まれ』(2017年)で知られる三島有紀子監督が映画化した大人のラブストーリー。一流商社勤務の夫・真(間宮祥太朗)とかわいい娘がいて、何不自由のない生活を送っていたはずの塔子(夏帆)。そんなある日、かつて愛した男・鞍田(妻夫木聡)と10年ぶりに再会したことで、塔子は心も体も解放されていくのを感じるが、鞍田にはある秘密があった。

監督:三島有紀子
出演:夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗、
片岡礼子、酒向芳、山本郁子、浅野和之、余貴美子ほか
2020年2月21日(金)新宿バルト9他全国公開
配給:日活

Profile
夏帆
夏帆Kaho

1991年6月30日生まれ、東京都出身。2007年の『天然コケッコー』で、映画初主演にして第31回日本アカデミー賞新人俳優賞など多くの新人賞に輝く。『海街diary』では第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近年の出演作品に、映画『きばいやんせ!私』(2019年)や『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(2019年)、NHK大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺~』などがある。公開待機作には、『架空OL日記』(2月28日公開)や『喜劇 愛妻物語』(2020年公開)など。

CHECK

書籍版「旅色」にて
映画『Red』三島有紀子監督 × 映画ソムリエ 東紗友美さんの対談掲載

書籍版「旅色」
  • 三島監督の映画『しあわせのパン』について
  • 宿が舞台の映画の魅力
  • 映画『Red』について など、映画好き・旅好きなら必読の対談です!
全国書店、コンビニ、amazon等で発売
amazonで購入

あの人の旅カルチャー

今月のテーマ「恋の旅」 「恋」をテーマに本と映画の“目利き”が作品をセレクト。
少年少女の恋や京都を舞台にした昔の恋の話など、多彩な愛の物語に感涙!

Book

  • 『夏子の冒険』

    『夏子の冒険』
    日本を代表する小説家の異色作。言い寄ってくる東京の男たちの凡庸さ、その先に見える自分の人生に絶望した良家の娘・夏子は「修道院に入る」と宣言。しかし函館行きの列車で見かけた猟銃を持つ青年の情熱的なまなざしに一目惚れし……。「仇を討つ」という青年の事情、夏子を追ってくる母、祖母、伯母! 北海道を舞台に、お嬢さんの恋と冒険が始まります。皮肉っぽいラストが痛快。
    三島由紀夫/著
    572円/角川文庫
  • 『せつない京都』

    『せつない京都』
    日本でいちばん恋物語や破局が繰り返された場所、それは京都ではないでしょうか。平清盛に心変わりされた姫の悲しみのお寺、小野小町が歌を詠み歩きモテまくった道など、本書は恋愛をキイワードに古都をめぐるユニークな新書です。男女ばかりではなく、西郷隆盛と身投げした悲劇の僧、都落ちした清盛の娘・徳子と運命を共にした女官たちの話もあり、いろんな愛のかたちに胸を打たれます。
    柏井壽/著
    880円/幻冬舎新書
  • 『恋をしよう。夢をみよう。
    旅にでよう。』

    『恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。』
    人気作家のエッセイ集。書かれているのは日々のことだけど、ふと旅への思いが浮上するのが読みどころです。たとえば無関係だった街が、好きな人が住んでいるというだけで意味のあるものになる――遠距離恋愛中の人には刺さるでしょう。また、あるできごとから悲しい乗り物になったロマンスカー。角田さんにとって恋、夢、旅は特別なことじゃなくて、日常なんだ、とわかってくるのが魅力的。
    角田光代/著
    572円/角川文庫
間室道子さん 代官山 蔦屋書店

代官山 蔦屋書店に勤める文学担当のコンシェルジュ。雑誌「婦人画報」の連載を持つなど、さまざまなメディアでオススメの本を紹介するカリスマ書店員。文庫解説も手掛け、書評家としても活躍中。

Movie

  • 『きっと、星のせいじゃない。』

    『きっと、星のせいじゃない。』
    末期癌の少年少女の恋。当時、試写室でも泣いている人しかいないと噂が広がり、毎回満員に。しかし、泣かせるだけじゃない! 爽やかな感動が広がり全身の細胞が生まれ変わります。二人が劇中の旅シーンで向かうのは、運河沿いがロマンチックなアムステルダム。アンネの家も重要なシーンに使われていますよ。不治の病の人だけでなく、限りある時を生きるのは万人共通。だからこそ今を、この一瞬を、大切に生きていこうという誓いを更新してくれる特別な物語。
    Blu-ray2,096円/DVD1,561円 発売中 発売元・販売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
  • 『あの頃、君を追いかけた』

    『あの頃、君を追いかけた』
    映画ソムリエ太鼓判のキミオイ! 台湾で社会現象となった何年もすれ違う男女のラブストーリー。告白できずに終わった恋がある人や、相手の想いを知りつつOKできなかった経験のある人、必ず刺さります。恥と後悔も含め、今の自分を掌る要素。すべてが愛おしい懐かしの青春時代を追体験させてくれます。多くの人が聖地巡礼で訪れた台北郊外でのワンデートリップのデートシーン、ランタンが出てくる映画は数あれど、最も詩的で情緒的! 日本でもリメイク済。
    Blu-ray6,380円/DVD5,280円 発売中 発売元・販売元:マクザム
  • 『ビフォア・サンライズ 
    恋人までの距離 <ディスタンス>

    『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 <ディスタンス>』
    長距離列車で出会った20代の男女が運命的な恋に落ちるまでの会話劇。お互いを知りたくて、ウィーンの一泊旅行で別れの朝まで夜通し話し続けます。しかも、その会話の内容が死生観や神の存在や奇跡について等、知的で私的で、インテリ系でおしゃれ。彼らの人生はその先も続き、30代が描かれたbefore sunset、40代の二人を描いたbefore midnightと計18年、主人公たちが変わらずシリーズが続く“長く付き合える映画”です。
    DVD1,572円 発売中 発売元・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
東 紗友美さん 映画ソムリエ

映画ソムリエとして、テレビ・ラジオ番組での映画解説や、映画コラムの執筆、映画イベントのMCなど幅広く活躍。映画ロケ地巡りも好き。日経電子版で「映画ソムリエ 東紗友美の学び舎映画館」を連載中。

※価格はすべて税込みです