『火口のふたり』で描かれる男女の関係は濃密ですが、鑑賞後は意外にも軽やかで爽やかな印象が残りました。柄本さん自身は、完成した作品を見てどんな感想を持ちましたか?
荒井監督は70歳を超えられているんですが、非常に若々しくて、みずみずしさがあるなと感じました。爽やかな風が映画の中に通っているというか、とっても抜けがいいなという感じがして、驚きました。
出演の決め手は荒井さんの脚本・監督というのが大きいですか?
一番にそれと言っても過言ではない、というかそれだけですね。ある日突然、荒井さんが僕の舞台を見に来て、楽屋で『火口のふたり』の話をされたんですけど、心の中でガッツポーズしました。荒井さんに声をかけられた段階でもう「絶対にやるぞ」とは思っていましたけど、本(台本)を読んだらすこぶる面白くて、さらにやりたい気持ちが高まったという感じですね。荒井さんの本は昔からすごくチャーミングで、それがずっと変わってないんです。その変わらなさ+時代時代によって肉付けされるものがありますけど、今回は肉付けされているものがそぎ落とされて、ソリッドな本だなあと思いました。
原作の設定よりも年齢がずっと若いこともあってか、柄本さんが演じる賢治はすごくかわいらしい感じがしますよね。
確かにそれは、この映画の持つ抜けのよさのひとつですね。実際に原作の年代の方がやったら、もうちょっとドロッとした、リアルな感じになったかと思うんですけど、若い年代の僕とか瀧内さんがやることによって、ある種の青春性が生まれているのかなとは思います。まあ、荒井さんの映画は常に青春映画ではあるんですけどね。
物語の舞台を、監督の希望で原作の福岡から秋田に変更したそうですが、「秋田で撮りたい」という監督の思いは聞きましたか?
荒井さんは「西馬音内(にしもない)盆踊り」というお祭りが撮りたかったんです。踊りがどこか独特で、歌と音楽と踊りがすごくかっこいい。セリフでも言っているように、(踊り手が)男だか女だかわからなくて、霊体がふよふよしているみたいな感じなんですけど、霊体ほど脆弱じゃなく、割とパワフルな印象があって、すごくいいんです。荒井さんは相米慎二監督に昔連れて行ってもらって「これ絶対映画に出したい」と思ったらしくて、今回、満を持してということで。映画の2人の関係と、生きているんだか死んでいるんだか、みたいな祭りの雰囲気がリンクしていて、この作品にぴったりだなあと思いました。
ほかに、撮影の合間に行った場所などはありますか?
10日間で撮ったので、いろいろなところに行く時間がなかったんですけど……ホテルの近くにある「めぐろ」というお店には、店の休みの日以外は毎日行ってました。べらぼうにうまいんですよ! 今度秋田に行ったら絶対に行こうと思っています。
気になります! 先ほどの西馬音内盆踊りも気になって「見に行きたい」という気持ちが喚起されたのですが、柄本さんも映画を見て「ここに行きたい」「旅に出たい」と思った作品はありますか?
マノエル・ド・オリヴェイラという監督が大好きなので、オリヴェイラ監督の作品を見てポルトガルには行きたくなりましたね。僕、割と出不精なのであまり旅行とかもしないんですけど、ポルトガルには3回行ってます。海外に行って一番贅沢なのは、せわしなくスケジュールを組むんじゃなくて、カフェとか、むしろ部屋から出ないでベランダとかで、その土地の空気や風を感じながら文庫本を読んだりすることだと思ってて。だからそういう気質の方は、ポルトガルはめちゃくちゃ合うと思います。散歩して、カフェに入って、ビール代わりに「ヴィーニョ・ヴェルデ」っていう緑のワインを昼も夜も飲む! あと、ポルトガルの人はみんな優しい。ポルトガルを知る人に、ポルトガルの子どもたちの優しいエピソードを聞いてから行ったので、「ハードル上がりすぎてない?」と思ったけど、本当にいい人たちばっかりでした。
出演した映画で、「また行きたい」と思った作品はありますか?
『僕たちは世界を変えることができない。』のカンボジアですね。映画のあとには残念ながら行けてませんが、映画を見てカンボジアに興味を持ったら、ぜひ行ってみてください。ご飯もおいしいです。