あの人の旅カルチャー

“僕も郁男みたいにダメな部分はあります”(香取)

“石巻の海風にあたる姿が
香取さんではなく郁男さんでした”(西田)

映画『凪待ち』で恋人同士の役で共演した
香取慎吾さんと西田尚美さん。
久しぶりの再会を喜び合うお2人に
役柄のことや舞台となった石巻での思い出、
そして旅に行きたくなる映画を聞きました。
本と映画の目利きがセレクトした
「ひとり旅」がテーマの作品にも注目です。
Text:Mitsugu Kobayashi(ENTERBANK)
Photo:Erika Shimamoto
今月のテーマ「ひとり旅」今月のテーマ「ひとり旅」
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俳優・アーティスト 香取慎吾
俳優 西田尚美

『凪待ち』で香取さんが演じているのは、自らを「ろくでなし」と語り、辛い現実から逃げてしまう主人公・郁男。笑顔を封印したダークな香取さんが衝撃的ですが、郁男についてどう思いますか?

香取 郁男は本当にダメなやつだなと思いました。郁男と比べたら、僕はけっこう、いろいろ頑張っている方だと思います。

西田 頑張ってますよー(笑)。

香取 でも、この役のダメな部分とか「慎吾ちゃんにはないんじゃないか」って言われたりもするけど、ありますよね。やっぱり人間だから、下を向く時もいっぱいありますし、うまくいかないこととか辛いこと、苦しいこともいっぱいあるけど、基本アイドルなんで。やっぱりアイドルは笑顔でいないとダメじゃないですか(笑)。でも半分以上は、郁男みたいなところもあると思う。心を閉ざす感じとか。僕は基本的に心を閉ざしているので。

西田 今も閉ざしてる? ショックです(笑)。

香取 いやいやいや(笑)、仕事はしますよ。郁男は、考えてないからうまくいかないわけじゃなくて、すごい頭の中でいろいろ考えているんだろうな、とかは共感できる感じはありますね。

西田さんから見て、郁男を演じる香取さんはいかがでした?

西田 台本を読んだ時、このダメな人を(笑)香取さんがどういう風に演じるんだろうなって、すごく楽しみでした。それで現場に入ると、“郁男”がそこにいたから「おー!」と思って。石巻の風景の中で、海風にあたっている姿が“香取慎吾さん”っていうよりかは“郁男さん”だったなあと思います。やさぐれている感じがすごく素敵でした。衣裳を身に着けて、ちょっと不精なヒゲが生えて、髪もボサッとなっていて、実際香取さん寝不足だったと思うんですけど、クマの感じとかがすごくリアルで。本当にその街に住んでいるかのように存在していて、(演じる上で)すごく助けられました。

石巻での撮影で印象的だったことはありますか?

西田 石巻には今回初めて行かせていただいたんですけど、海の物がすごくおいしかったです。現場でもいただいたんですけど、香取さん、たくさんごちそうになって(笑)、ね。

香取 いっぱいいただきました。おいしかったー。ロケでずっと外にいるんですけど、(亜弓の実家として撮影された)メインのおうちのご近所に、おうちがあったのでピンポーンって入って……。

西田 香取さん、そのお宅に普通にいるんですよ(笑)。私知らなくて、「お手洗いお借りしたいな」と思ってウロウロしてたら、香取さんが「西田さん、こっちでお手洗い借りれば」ってそのお宅から出て来て。「とんでもない!」って言ったんですけど、香取さんが「どうぞどうぞ」って、もうわが家のように言うので(笑)、香取さんパワーでお借りしました。

香取 そこのおうちのリビングが僕の控室でした。本当に毎日行って、撮影の合間合間にお母さんやおばあちゃんとかとのんびりして。漁師さんのおうちだったんですけど、毎日おいしいものをいただいてました。最後、撮影が終わったあとにも挨拶に行って、お父さんたちとビール飲んで帰りました。

「心を閉ざしている」と言っていた方とは思えないエピソードですね……! そんな街の方との交流も含め、石巻だからこそできた映画でもありますよね。ちなみにこれまで見た中で、舞台が印象的で、旅に出たいなと思った映画はありますか?

香取 (少し考えてからひらめいたように)『セックス・アンド・ザ・シティ』! ニューヨークが好きだし、ファッションとかも見てて楽しかったから、ドラマも映画も全部見てます。あのニューヨークのマンションの前の階段の感じとかが、いつまでたっても憧れです。家の中の衣装部屋とかも。

西田 私も全部見てます。インテリアも素敵だしね。私は『ナビィの恋』という映画をやってから、それまで沖縄に行ったことがなかったんですけど、沖縄に毎年行くようになりました。沖縄がすごく気に入って、毎年家族で本島だったり離島だったり、転々と巡っています。

香取さんもよく旅行はされますか?

香取 好きです。よく行ってるなっていうくらい、けっこう行ってますよ。ヨーロッパはほとんど行ってます。イタリアだったらミラノ、ローマ、フィレンツェとか、スペインのサグラダ・ファミリアを見に行ったり。アートが好きだから、美術館に行ったり、世界遺産を見たり、それが刺激になって自分の世界が広がる感じがして。

石巻にもまた旅行で行きたいのでは?

香取 ごはん食べに行きたいです。ほんっとにおいしかったー!

共演者の方たちとご飯を食べたりも?

香取 そんな時間はまっっったくなかった。なかったですよね?

西田 なかったです。あ、でも娘役の(恒松)祐里ちゃんと一緒にご飯食べに行ったりはしましたけど……。香取さんは東京に戻って仕事してたから……。

香取 えー! してたんですか? 知らないところで!(笑)

香取慎吾さんが
旅に行きたくなる映画

『セックス・アンド・ザ・シティ〔ザ・ムービー〕』

『セックス・アンド・ザ・シティ
〔ザ・ムービー〕

Blu-ray 発売中 2,160円
ギャガ、フジテレビジョン

©MMVlll New Line Productions,Inc.Sex and the City TM is a trademark of Home Box Office,Inc.All Rights Reserved

アメリカ・ニューヨークを舞台に、恋に仕事に貪欲な4人の女性たちの日常をスキャンダラスに描き、日本でもブームを巻き起こした人気ドラマシリーズ(全6シーズン)の劇場版。2年後には続編も公開された。主人公のキャリー(サラ・ジェシカ・パーカー)たちが着る、斬新で華やかなファッションも見どころのひとつ。ちなみに香取さんはかつて、テレビ番組でのパロディコントで本作のメインキャラの一人であるサマンサを演じたことも。

西田尚美さんが
旅に行きたくなる映画

『ナビィの恋』

『ナビィの恋』

Blu-ray 発売中 5,184円
バンダイナムコアーツ

©1999 オフィス・シロウズ/バンダイビジュアル

西田さん演じる主人公・奈々子の恋や、60年の歳月を越えたナビィおばぁ(平良とみ)の恋の行方を、琉球民謡など多彩な音楽にのせて描く沖縄ムービー。「沖縄はすごく好きです。海がきれいで、食べ物もおいしくて、“沖縄時間”が流れているから、『ここにいたら、だらだらしてても許される』と思えます。東京はいろんな情報が入ってきてすごく忙しいので、お休みの日に沖縄へ行くと、だらーっとできていいですね」(西田)
INFORMATION
『凪待ち』©2018「凪待ち」FILM PARTNERS

『凪待ち』

『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』など話題作を続々と生み出している白石和彌監督が、香取慎吾との初タッグで描くヒューマンサスペンス。毎日ふらふらと過ごしていた主人公・郁男(香取慎吾)は、ギャンブルから足を洗い、恋人の亜弓(西田尚美)とその娘・美波(恒松祐里)と共に、亜弓の故郷である石巻で再出発しようと決意。しかし、亜弓の父・勝美(吉澤健)が暮らす家で新たな日々が始まった矢先、亜弓が何者かに殺されてしまう。亜弓が死んだのは自分のせいだ、という苦しみを抱える郁男。さらに追い打ちをかけるように、濡れ衣によって職場を解雇されてしまい、次第に自暴自棄になっていく。
監督:白石和彌、出演:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美ほか
6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:キノフィルムズ

Profile
香取慎吾
香取慎吾Shingo Katori

1977年1月31日生まれ。1991年にCDデビュー。活動は多岐にわたり、俳優としてはドラマ『新選組!』(2004年)や映画『人類資金』(2013年)などに出演。2018年から稲垣吾郎、草彅剛と共にAbemaTVの『7.2 新しい別の窓』に出演中。2018年8月から、祐真朋樹と共にディレクターを務めるショップ「JANTJE_ONTEMBAAR」を展開。アーティストとしては、2018年9月にパリ・ルーヴル美術館で初個展、2019年に日本国内での初個展を開催した。

西田尚美
西田尚美Naomi Nishida

1970年生まれ、広島県出身。モデルを経て女優に転身し、映画、ドラマ、舞台などで活躍。出演作品は数多く、主な映画は『ひみつの花園』(1997年)、『南極料理人』(2009年)、『図書館戦争』シリーズ(2013年、2015年)、『友罪』(2018年)、『ラ』『初恋?お父さん、チビがいなくなりました』『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(2019年)。ドラマでは『マッサン』(2014年)、『メゾン・ド・ポリス』『集団左遷!!』『長閑の庭』(2019年)など。今後も映画『新聞記者』(6月28日公開)、『五億円のじんせい』(7月20日公開)などが控えている。

あの人の旅カルチャー

今月のテーマ「ひとり旅」 「ひとり旅」をテーマに本と映画の“目利き”が作品をセレクト!
旅の魅力はもちろん、人生のヒントを与えてくれる作品も必見。

Book

  • 『鳥と雲と薬草袋』

    『鳥と雲と薬草袋』
    単独の旅かどうかの明記はないけれど、しんとした心で土地と向き合うさまは、ひとり旅テイストの真骨頂だと思うのでご紹介。人気作家が実際住んだり旅したりした場所のエッセイ集で、方角、地形、収穫物、そこで起きた事件などが深くかかわる土地の名は、名前以上に「教え」なんだなあ、とわかってきます。あとがきに、旅した地名は「薬効」のようなものを与えてくれるとあり、うなずく人も多いはず。
    梨木香歩/著
    1,404円/新潮社
  • 『京都で考えた』

    『京都で考えた』
    著者が記憶の中で巡る京都エッセイ。初のひとり旅がこの街だったそうで、はしゃぐことなく静かに街を歩き回った孤独と、湯気のあがる肉定食を夢中で食べたという若さが心に染み入ります。「街からなくなっているものと人が忘れているものの違い」「人はなぜ時間を巻き戻したいと思うのか」など、京都自身が考えを持っていて、それが著者を通して浮かび上がっているような読み味が魅力的。
    吉田篤弘/著
    1,620円/ミシマ社
  • 『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』

    『47都道府県 女ひとりで行ってみよう』
    タイトルどおりのイラストエッセイで、近場は日帰り、沖縄でも2泊3日。観光はするけれど、名物や宿泊にはこだわらず、ちなみに山梨では健康ランドに泊まり、食べたのはナポリタンと味噌ラーメン。このゆるさはまさに「休暇」と気づきました。旅で学ぼう、意味を得ようとすると疲れちゃうもので、「休」「暇」の醍醐味はのんびりすること!「非日常」をやめて旅に日常を持ち込む画期的な一冊。
    益田ミリ/著
    617円/幻冬舎
間室道子さん 代官山 蔦屋書店

代官山 蔦屋書店に勤める文学担当のコンシェルジュ。雑誌「婦人画報」の連載を持つなど、さまざまなメディアでオススメの本を紹介するカリスマ書店員。文庫解説も手掛け、書評家としても活躍中。

Movie

  • 『食べて、祈って、恋をして』

    『食べて、祈って、恋をして』©2010 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
    この1本にひとり旅の醍醐味がすべて詰まっています。人生に迷える35歳のNY在住キャリア女性が自分を見つめ直す旅へ。イタリアでは美味しいもので身体を回復させ、インドでは瞑想で心を治癒し、ちゃんと休んで生まれ変わった自分で新たな人生のステップを踏みだすためにバリへ……。旅とひと言で言っても国ごとに目的が明確に異なり、休息、成長を経てステップを踏んでいくかのように彼女が徐々に再生されていく様子に励まされます。
    Blu-ray発売中 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 2,571円(スペシャル・エディション)
  • 『わたしに会うまでの
     1600キロ』

    『わたしに会うまでの1600キロ』©2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
    タイトルからライトな自己啓発系かと思っていたらよい意味で裏切られます。どん底に落ちた女性が再起をかけて、たったひとりで3カ月間、砂漠や山道を通るトレイル(PCT)に挑戦した実話。女ひとりの過酷なサバイバル。ありがちな旅の失敗なども描かれ“歩き旅”を疑似体験できるだけでなく、孤独だからこそ一緒に生きる人がいることの大切さも気付かせてくれる1粒で2度美味しい感動作。今の自分を変えたい人、エールを送りたい人、おすすめです!
    DVD発売中 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント 1,533円
  • 『百万円と苦虫女』

    『百万円と苦虫女』©2008「百万円と苦虫女」製作委員会
    「探さなくたって、いやでもここにいるから」と、自分を探さないタイプの主人公。人と深く付き合うことを恐れ、預金が100万円貯まったら、リセットするため街を転々としていく彼女ですが、少しずつ変化が生まれます。「こんな生き方もあるんだ」と視野も広がるし、周囲とどう向き合っているか、自分の人生と照らし合わせてしまうので振り返るきっかけもくれます。困った顔で笑う蒼井優さんの表情がリアル。人生こそ、旅そのものですね!
    DVD発売中 日活 5,076円
東 紗友美さん 映画ソムリエ

映画ソムリエとして、テレビ・ラジオ番組での映画解説や、映画コラムの執筆、映画イベントのMCなど幅広く活躍。映画ロケ地巡りも好き。日経電子版で「映画ソムリエ 東紗友美の学び舎映画館」を連載中。