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星のや竹富島 料理長 伊藤康弘

1988年生まれ、東京都出身。辻調理師専門学校でフランス料理を専攻。在学中リヨンにあるフランス校で学び、本場のフランス料理に触れる。卒業後は、レストランタテルヨシノをはじめとする数々のフレンチレストランで修行を積み、2016年星野リゾートに入社。2018年星のや竹富島の料理長に着任。伝統的なフレンチの技法を活かし素材の味を引き出す料理を得意とし、日々島食材の調理法や新たなメニュー試作に従事している。

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食材名のみ書かれたメニュー
素材に興味を持ってもらうことが鍵

とまこ:「琉球ヌーヴェル」と冬季限定の「島テロワール」。この2つの誕生のきっかけを教えてください。

伊藤:まず「琉球ヌーヴェル」について。ヌーヴェルとはフランス語で“新しい”を意味する言葉です。その言葉通り、南の島らしい食材を使って新たな発見や驚きのある料理を提供したいという思いから生まれた、星のや竹富島オリジナルの料理コンセプトです。

2018年に誕生した「島テロワール」というのは、このコンセプトに加えて、冬の沖縄の魅力をもっと知ってほしいという思いから、温暖な気候で育つ食材の“冬の旬”をお客様に楽しんでもらうために生み出されました。

温暖な竹富島では、野菜などの作物は夏の日差しの中でワイルドな味になります。ところが、同じ食材でも冬になると味にまろやかさや優しさが出るんです。その違いもまた面白いと感じていただけるはず。そんな風に、食材そのものにもっと興味を持ってもらうために、メニューには使用されている食材の名前のみが書いてある、ちょっと変わったプレゼンテーションをしているんです。

とまこ:なるほど。想像をかき立てられますね。島の食材って私のイメージでは長命草など苦味があって、なかなか料理に取り入れるのが難しいイメージだったんですが、苦労された点はありますか?

伊藤:長命草に限らず、葉物は若いうちに摘んで食べると比較的食べやすいですよ。私たちもメニューを考案するにあたり、ホテル内で食材を育てて、収穫して、たくさん試作してからメニューを決めていきます。この素材はどんな調理法や温度がいいのか、島の方々にアドバイスをいただいたりもします。

とまこ:そうなんですね! 食べる時期、調理法や島の人の知識も大事な要素ですよね。

伊藤:島の食材は比較的淡白な味わいのものが多いです。なので、食材にさまざまな要素をプラスして味の複雑さを表現するフランス料理の技法ととても相性がいいんです。

驚きと感動と
ライブ感を味わえるひと皿

とまこ:料理を作るときに島からインスピレーションを受けることも?

伊藤:もちろんです! 長いこと東京で働いていましたから、初めて竹富島に来たときは自然のダイナミックさに感動しました。料理もこの竹富島のようにダイナミックに楽しんでほしい、そう考えて、メニューを提供するときにできるだけ「ライブ感」を出せるよう工夫しているんです。例えば、目の前で仕上げの工程を見せたり、お料理を切り分けたりと、味だけでなく目で見ても楽しめるのがポイントですね。

とまこ:「驚き」というのがダイニングの中で、一つのコンセプトになっているんですね。

伊藤:島の車海老や肉、芋、どれもシンプルな食材ですが、いかに驚きとともに提供できるかを重視しています。それに加えて、季節ごとのテーマも大切にしています。今季のテーマは「命草」。ホテル内でも育てている長命草、フーチバー、ハンダマなどあらゆる命草をメニューに取り入れて、ドレッシングにしてみたり、パンに練りこんでパイ包みならぬ“パン包み”で肉を焼いて香りを出してみたり……いろんな方法で島の食材を楽しんでもらえたらと思っています。

小さな島が生み出す
無限の可能性

とまこ:島だからできる、いや、“島じゃなきゃできない料理”ってあるんですね。

伊藤:小さな島だからこそ、限られた資源の中で引き出せるものがあると思います。

とまこ:メニュー考案にも一役買っている島民の方々がダイニングのお料理を楽しめる機会ってあるんでしょうか。

伊藤:はい。年に1度「島民ランチ」というのを設けて、島の人々をお招きしています。皆さん子どもの頃から慣れ親しんでいる島の食材が、あっと驚くような料理に生まれ変わって提供されるので、毎回楽しんで帰ってくれています。島から何かを“いただく”ことが多いので、今度は島に恩返しをしたいという気持ちもありますね。

とまこ:素敵ですね。伊藤料理長が今後竹富島で挑戦してみたいことってありますか?

伊藤:そうですね。ちょっとチャレンジかも知れないですが新しい“オーソドックスな調味料”を作ってみたいと思ってます。沖縄の食材を使って、例えば家庭に欠かせない醤油や味噌のようなものを作りたい。そこにフレンチの要素を融合できたら……と考えると、料理の可能性が広がりますね。まだまだ竹富島を知らない方もたくさんいらっしゃると思うので、そういった新たな取り組みから興味を持ってもらい、島を知るきっかけになれば嬉しいです。

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