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命草(ぬちぐさ)に芋、車海老……

竹富島に溢れる食材は、昔から島人の生活に欠かせないものであり、

たくさんの知恵が詰まっています。

そんな島の食文化を「星のや竹富島」で、旅作家・とまこさんが体験。

道中出会う島人たちから食や文化を教わりながら、魅力溢れる島食を

探る旅へ出かけましょう。

写真/福井麻衣子 取材・文/藤村実里

  • 竹富島ならではの文化を知る旅へゆったりとした時が流れる、八重山諸島。石垣島からフェリーに揺られること約10分、たどり着いたのは“神の島”と呼ばれる竹富島。島のもうひとつの集落と呼ばれるリゾート「星のや竹富島」では、そんな島のしきたりや文化を丁寧に取り入れた滞在ができるという。グック(石垣)によって1軒ずつ囲われた客室は、完全なるプライベート空間。心地よい風の音を聞きながら、窓を開け放ってゆっくりと島時間に身をゆだねる……ここで日がな一日ぼーっとするのも最高に贅沢だ。とはいえ今日は島に降り立って初日、まずはこの場所の魅力を探るべく、散策へ出かけましょう。

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  • 若手畑人の手で受け継がれる
    島人の命を支えてきた食材
    ホテル内を散策していると、何やら畑らしき開けた場所に到着。せっせと作業する人を発見して、声をかけてみると――。「ここはホテルで管理している畑なんです」爽やかな笑顔で応えてくれたのは、スタッフの小山さん。はて、どうして星のやのスタッフさんが畑仕事を? 「以前はダイニングでサービスを担当していたんです。赴任して1年間、竹富島で暮らして島の人々と触れ合う中で、島食材に魅せられて、畑人(はるさー)になったんです」。島の集落のひとつ、仲筋の顧問(長老)である前本隆一さんの協力を得て、星のやで島食材の栽培をスタートしたという小山さん。「畑仕事に従事する人が減り、島独自の食材はだんだんと少なくなっています。そこで、前本さんから種をいただいて、ホテル内で栽培をつづけているんです。育てた食材は、ホテル内で提供することもあるんですよ」。

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  • ふと足元を見ると、畑に立てられた三本の不思議なモノが……。「これは、サンと呼ばれるススキのお守りです。その昔病魔が竹富島にやってきたときに、島人アールマイがこのサンを立てて、島中の畑を守ったことから言い伝えられています。島の人にとって農業は生きていく術。豊作を祈る“種子取祭”という島最大の祭りが今でも開かれているんです」。

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  • おもむろに、サンの前で手を合わせて不思議な言葉を唱え始める小山さん。突然の出来事に驚いていると、これも昔から島に伝わる豊作を祈るおまじない(島言葉)なんだとか。畑作業だけじゃなく、こんな風に島の文化まで継承しているなんて、熱意の強さに恐れ入ります。

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  • もうひとつ、島の食材として欠かせない命草(ぬちぐさ)についても。医者が長いこといなかった竹富島では、煎じたり、すり潰して飲むなど薬として重宝されてきたのだそう。ハンダマや苦菜(にがな)は沖縄でもよく見る野菜だけれど、「竹富島ではガジュマルの木の根やグァバも命草の一種として伝えられているんです」と教えてくれた。星のやの敷地内では、3年かけて54種の命草を育てることを目標に栽培しているというから驚かされる。取り入れると体にいいもの=命草という考え方には、小さな島で暮らしてきた人々の知恵がつめこまれている。島の食文化の奥深さ、まだまだ知らないことがありそうです。

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  • おばぁが伝える
    島食材の素朴な味わい
    ホテルを出て、ふらりふらりと集落へ。竹富島には3つの集落があり、どこものんびりとした雰囲気。集落の入り口にはスンマシャーと呼ばれる大きな木が植えられていて、外敵が入ってこないよう魔除けの役割があるのだそう。サンゴの白砂が敷かれた道は、島人が毎朝丁寧に掃いている、とスタッフさんが言っていたっけ。ホテルの敷地内もこの文化にならって同じように石垣や道を管理しているというから、“第4の集落”と呼ばれるのも納得。

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  • ひときわブーゲンビリアが美しく咲く小道を歩いていると、2体のシーサーが目に入った。ここは何かな? 立ち止まって眺めていると、中からおばぁが現れ、ごあいさつ。「こんにちは」と優しく迎えてくれたのは、民宿 新田荘を営む新田初子さん。生まれも育ちも竹富島という生粋の島人で、息子さんが管理する畑で採れた作物を料理にも使っているという。縁側に手招きしてくれたおばぁに甘えて、島の食についてあれこれ聞いてみることに。

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  • 「昔はね、竹富島は食べるものが少なかったから野草とかを食べていたの。摘んで、湯がいて、味付けして。栄養価の高い野草は貧血予防にもなったんだよ。昔の人の知恵だよね」。目を細め、懐かしそうに語ってくれる初子おばぁは島では有名な料理上手。畑で採れる30種もの野菜やコンドイ浜で獲れるもずくなど、島の恵みを料理して、お客さんにふるまっているんだそう。「聞いているだけでおいしそう」とついつい口に出してしまうと「食べていく?」と嬉しいお誘い! 収穫したばかりの大根の間引き菜のおひたしをササッと作ってくれることに。

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  • 初子おばぁの料理は、素朴で、優しくて、そして温かい。島の人の知恵が受け継がれた、そんな素敵な味を丁寧にいただきます。現在は島の食文化を伝えるべく、島の子どもたちとともに命草収穫をしたり、島豆腐の作り方を教えたりと講師としても活躍しているんだそう。おばぁの手から島の子どもたちへ。島の食文化は、こうやって次の世代にバトンが繋がれていくんですね。

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◆民宿 新田荘

住所/竹富町字竹富347

アクセス/竹富港から車で約5分

電話番号/0980-85-2201

  • 島唄にのせて願った
    豊作への祈りと感謝
    集落散策の後はホテルへ帰着。夕方に催される「夕凪の唄」があると聞き、ゆんたくラウンジへ足を運びます。ラウンジに設置された薬箱には、ホテル内で収穫された命草がずらり。沖縄でおなじみのさんぴん茶からウコン、長命草、フーチバーまで。どんな味がするのかな? と想像しながら命草茶を淹れ、一息ついて三線の音色に癒されます。演奏しているのは三線奏者の花城敏明さん。ゆんたくラウンジで定期的に三線を披露しているのだそう。

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◆ゆんたくラウンジ

営業時間/24時間

催し/「夕凪の唄」毎日16:45〜17:15 ※演目は日替わり

料金/無料

  • 「三線ちょっと弾いてみる?」と生まれて初めて手にする三線は、キリリと引き締まった漆塗りのボディが美しい。みようみまねで奏でつつ、三線と竹富島の関係について聞きました。「三線は沖縄の伝統的な楽器。特に農業が主だった竹富の人にとって、豊作を祈る祭や行事に欠かせない楽器だったんです」。なるほど、竹富島の唄は農業にまつわる唄が多いことにも納得です。農業と密接に関わる島の人にとって、三線とともに唄われる島唄は豊作への祈りと感謝の表れ。島の人の願いが込められているのだそう。

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  • 「沖縄の方は三線をお酒の席にも持って行くと聞きました」。「そうそう。ゆんたくって言ってね、もとは“おしゃべり”という意味の方言なんだけど、今では酒の席などみんなが集まる会のことを指すんです。宴席でも三線がないと盛り上がらない。最後はみんなで唄って踊る、それが島人ですね(笑)」。豊作への願いから、今ではみんなが集まる場に欠かせないものへ。三線の音色は、いつの時代も島の人の「食」の側にあるものなのかも知れません。

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