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戦後はここ毛穴・津久野地域に40軒以上の和晒工場がありました。しかし、海外から届く安価な洋晒の勢いに押され、今なお晒をつくっているのは界隈に7軒だけ。それでも堺市は和晒のトップシェアを誇り、武田晒工場がその一端を担っています。

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    和晒の伝統と新しい価値/武田晒工場

「古い機械は替えのパーツがない。自分で直さないと」と、器用にメンテナンスを行うのは社長の武田清孝さん。晒工場を継ぐ前は大手家電メーカーに勤め、そこで得たプログラミング知識をもとに工場の機械化を成功させた人物です。時代の変化によって界隈の和晒工場が続々と廃業していくなか、業務の効率化を図り、100年以上続く家業を守ってきました。伝統を受け継ぎながらも新しい価値を生み出してきた、武田晒の軌跡を伺います。

お話を聞いた人:株式会社武田晒工場 / 代表取締役 武田清孝さん

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晒とは、織物から不純物を取り除いて漂白したもの。“和晒”は、その加工のことを指します。その工程の始まりは「のり抜き」から。加工する前の綿生地は糸の強度を保つために糊づけされていて、そのままだと染料をはじいてしまうため、大きな釜で綿生地を焚き、糊を落としていきます。その後、精錬漂白をしてやっと染物生地として適した白さになっていくのです。

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のり抜き・精錬漂白した後は、釜から引き揚げ遠心分離機へ。きれいに並べてから脱水します。水分をたっぷりまとった生地はずっしり重く、特に寒い冬はこの作業が重労働。ただ工場での作業は分担制だそうで、みなさん自分の持ち場の作業はとても手際がよく、見ていて気持ちがいいものです。

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乾燥の方法は、晒を熱したシリンダーに巻き付けながら乾かす「シリンダー乾燥」と、家庭で洗濯物を乾かすのと同じ「竿干し」の2種類。シリンダー乾燥の場合、生地を引っ張りながら乾かしますが、竿干しは1枚ずつ手作業で晒をかけるので、手間がかかるぶん生地の負担が少ないという違いがあります。40年以上前は、大きな敷地を借りてすべて外に竿干ししていたそうで、晒工場の朝は午前2時からという時代もあったのだとか。

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乾燥させた後は、家庭でいうアイロンがけのような工程へ。晒を再び蒸気にあて生地を伸ばします。蒸気を出すための火加減、生地を動かすスピード、どれも季節や天気により微調整しなければならない繊細な作業です。ちなみに晒は幅約40㎝が小巾(こはば)、それ以上を広巾(ひろはば)と呼び、広巾を扱っているのは堺市でも武田晒工場ともう一社しかないそうです。

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「子どもの頃、父親の職業を聞かれて、晒をつくっていると答えてもみんなそれを知らなかった」という社長の息子で専務の武田真一さん。「自分の子どもにもそういう想いはさせたくないから」と、界隈の同業者とともに、手ぬぐいの認知を目的とした「てぬぐいフェス」を2017年から開催。晒の新しい価値を提案するため、ベビー用肌着「天使のころも」、何通りもの使い方ができるロール状の晒「さささ」などユニークな商品を開発しています。

専務取締役 武田真一さん

まっさらになった晒は、

用途にあわせて次なる加工へ。

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伝統技術だけに頼らず、
独自の加工法で晒の価値を見出す

武田晒の加工法は5種類。木綿生地から糊を取り除いた状態の「のり抜き」、漂白まで行う「無蛍光」、さらに生地を蛍光塗料で染める「蛍光」の3つは一般的な手法ですが、現社長はさらに2種類の加工法を開発。のり抜きされた生地の繊維をやわらかくして吸水力を高める「精錬」、従来と比べ化学薬品や水、エネルギーを控えてつくる「ECO」は、武田独自の技術です。他より高価格でも「ECO」の晒しか買わないという取引先が生まれるほど、好評です。

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晒の可能性を広げたオリジナル商品。
ささっと使える、その名も「さささ」

2020年5月に販売をスタートさせた自社ブランド「さささ」。必要なぶんだけ切って使えるロール状の晒です。ふきんとして使うのはもちろん、野菜の水気を絞ったり、だし鰹などを濾したり、蒸し器に敷いたり、コーヒーを淹れるときにフィルターとして使ったり......用途はさまざま。すぐに乾いて再利用できるので、サステナブルな暮らしが求められる現代にマッチし、販売後即売り切れたヒット商品です。

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堺の晒を次世代へ繋ぐために

武田晒工場の従業員は現在約20人。毎日4000反、手ぬぐいにして約4万枚分の晒を生産しています。「堺の伝統工芸といえば包丁のイメージが強いけど、和晒や手ぬぐいにも注目してもらいたい」と話す武田社長。息子の真一さんは「父親の世代は、同業他社がライバルという側面があったけど、職人の数が減った今、僕ら世代は技術を絶やさぬよう協力し合う間柄。いろんな形で手ぬぐいの町・堺を発信していきたい」と語り、熱意のバトンがしっかりつながっていると伝わってきました。

注染を武器に、手ぬぐいを若年層に広めた立役者