旅色プラス
歴史豊かな温泉の伝説を、美しい写真とともにご紹介する『月刊旅色』の連載「ロマン秘湯」。この中で、鷹や亀、行基など、毎月さまざまな発見者が生き生きと動き出すアニメーションが「ほっこりする」と話題に。今回は、この連載で作画を手掛けるイラストレーター・池田衣絵さんの制作現場に密着。そして、特別に11/25(木)公開予定の12月号の下書きもチラっとお見せします!
▲写真は、有福温泉を象徴する外湯「御前湯(ごぜんゆ)」
10/25(月)に公開された、島根県江津市にある「有福温泉」。こちらは、天竺(現在のインド)出身の聖人・法道仙人が、中国や朝鮮をはじめ播磨国(現在の兵庫県)などを訪ね、仏の教えを説く道すがら、高原の中に見つけたという秘湯です。
と、本編ではこんなふうに触れていますが……。実はこの仙人、主に兵庫県では突拍子もないエピソードで語り継がれる人気者。紫雲に乗ってやってきたという法道仙人は、別名「空鉢(からはち)仙人」と呼ばれ、地元の人々に親しまれています。というのも、托鉢(たくはつ)の際、道端に立つことをせず(!)、その鉢を自由自在に飛ばして米や食料などのお布施を受けていた(‼)、ということからその別名がついたそう。
そんな仙人が有福の地に足を留めた際、岩間から温泉が湧き出るのを発見。そこに仏像や菩薩、自彫の薬師仏を安置して去っていった、というのがこの有福温泉の秘話です。
▲鉛筆で下書きをしていきます
この仙人を描く上で、池田さんが一番苦労したのは「仙人の顔」だったと言います。
「インドから来た仙人なので日本人とは違う雰囲気にしたかったのと、おおらかでユーモアがあるイメージに近づけたくて、骨格や表情に試行錯誤しました」
「島根県には行った事がないのですが、その土地の地形や山の植生や空気感も絵でお伝えできればと思っています。今回は岩の間から涌いている温泉だったので、その両方を一枚の絵にすることが難しかったです」
絵の方向性を決める打ち合わせでは、仙人のとんでもないエピソードを発見する度に驚き、笑いが起きて脱線することも(笑)。しかし、池田さんが下書きをするためのヒントとして、その土地の地形や時代背景など、一つ一つを調査しながらその場でイメージを作り上げていきます。
描くものが決まったら、次は下調べです。池田さんはこの時間をとても楽しいと言います。
「法道仙人がどんな人なのか。作った仏像はどのようなものだったのか。時代は、材質は、インドから持って来たものだったのか……と、時間があれば島根県に行って、仙人にまつわるお寺をまわって調査したいくらいです」
▲イラスト上にある帯状のメモで、動く順番をデザイナーに伝えます
「色を入れる最初の数分くらいは楽しい気持ちになりますが、絵を描く事は精一杯でまだまだ余裕はありません。仕事が終わって一息ついてようやく、あ〜〜疲れたけどー楽しかった!って思います」
今回、特に注力したと話すのが、法道仙人が手作りしたという仏像の顔。
「古代インドの観音様は王子様のようだったり、真ん中の仏像はインドの阿弥陀様でお気に入りです」
さらに、背景右側の銀杏の木も、この地に今でも実際するものを参考に描いてくれました。「この絵には現存する銀杏のご先祖さまを描きました。全体的に見て、その場所らしさを感じていただけたらうれしいです」
『ロマン秘湯』で手掛ける作品は、和紙の上に墨と水彩で描いていくスタイル。その描き方ならではの苦労したポイントは……。
「和紙に描いているので、筆の穂に含まれる水分量に気をつけています。色が和紙ににじむと後戻りができないし、修正もほんの一部しかできません。淡い色を使うので、筆洗器の水が少しでも濁ったら替えています。イラストを彩色する時は、平常心で慎重に。墨入れの時は、とにかく集中して筆がのってくるまで描きます」
緊張のピークが墨入れの時と話す池田さんですが、その前にあることを行って集中力を高めていくとか。
「時間に余裕がある時は、墨入れの前にエクササイズとして書道をします。『書画同源』といいますし、かな文字の細い線を書くことで、より早く集中していい線が描けるようになる気がします」
そんな制作を行う過程で、「これがないと始まらない」と思う品について聞くと、こんな答えが。
「新しい水……ですかね。水道から出る水(笑)。墨を摺るのも、水彩を溶かすのも、朝に飲むのもお水なので、大切です」
「鉛筆も筆も消耗品ですし、和紙はイラストに合わせて選んでいます。伝えたい気持ちと美しい記憶があれば、大丈夫です」
こうして出来上がった、10/27に公開された有福温泉のアニメーション。紫雲に乗り、杖で自在に仏像を安置していく姿は、ぜひ『月刊旅色』の温泉連載「ロマン秘湯」でご覧下さい!
ここで、11/25に公開される次回作の下書きを特別に公開します! 11月は、いま大人気のTVアニメ「鬼滅の刃」でも注目されている、“鬼”にまつわるエピソードが眠る温泉をご紹介。京の奥座敷・亀岡に伝わる「湯の花温泉」の秘話が明らかになります。
池田衣絵(いけだきぬえ)
1984年富山県富山市で生まれる、県内在住。フリーランスのイラストレーター。京都の和紙文房具の会社ではがきや、ぽち袋などの手描きのデザインを5年間手掛ける。パレットクラブイラスト教室修了。武蔵野美術大学 油絵学科 版画コース卒業。ノッティンガム・トレント大学(英)ファインアート学科交換留学。2021年8月には「神社語辞典」(誠文堂新光堂)の全編イラストを担当。『月刊旅色』内の「ロマン秘湯」にてイラストを制作中。
今回は、『月刊旅色』内の温泉連載「ロマン秘湯」のイラストを手掛ける、池田衣絵さんの制作現場に密着しました。11/25に公開される京都「湯の花温泉」の回もお楽しみに。
過去の「ロマン秘湯」公開分はこちら▶旬な旅行・グルメ・旅ファッション情報や連載コラムを毎日配信する、女性向けニュースメディア。
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