旅色プラス
反権力的なメッセージを世界中のストリートで表現する覆面グラフィティアーティスト・Banksy(バンクシー)の作品展が来日し話題を呼んでいる今、改めてストリートアートに注目が集まっています。壁面の所有者に無断で描くことは違法とされている「グラフィティアート」に対し、合意のもとで描かれる「ミューラルアート」という表現があるのをご存知ですか? 今回は、地域ぐるみで街を活性化させるミューラルプロジェクトを日本各地で手掛けているアートディレクター・大黒健嗣さんに、高円寺で注目したい壁画5作品についてお聞きしました。
all photo:clara mathiesen
JR高円寺駅南口を出て徒歩約3分。高架下の駐車場で、夕日に向かってハンドルを握りながらバックするようにも見える、セクシーなブロンド女性が目印の駐車場。まるで、駅に降り立った人をお出迎えしているかのよう。
大黒さんはこの作品を「高円寺壁画プロジェクト、記念すべき第一作」と話します。「描けそうな壁を探しては玄関先で、電話番号を探して、オーナーさん等と相談し、壁画チームメンバーが探し当てた壁です。『壁のサイズをはみ出すモチーフで』というオファーだけして、あとは作家の苦虫ツヨシに託しました。場所に合わせて“PARKING”をテーマに描かれたこの絵は、人のサイズ(身長)と相性がよく、高円寺の有名なフォトスポットの1つになりました。ミューラルプロジェクトが幕を開けた大切な作品です」
◆場所:JR高円寺駅の高架下 東京都杉並区高円寺南4丁目42
作家名:苦虫ツヨシ
高円寺の夏を告げる「東京高円寺阿波おどり」。JR高円寺駅の南北に展開する8演舞場を舞台に2日間で延べ165連・1万人を超える踊り手が舞い、約100万人に迫る観客で街中が熱気に包まれます。2020年で64回目の開催となる予定でしたが、残念ながら今年は中止に。次回の開催まで待ちきれない、という人にもおすすめなのがこちらです。
「僕が共同創業者・アートディレクターとして参加しているアートホテル『BnA hotel Koenji』でも居室空間に壁画を提供している、高円寺在住のアーティスト高橋洋平の作品。夏の風物詩である『東京高円寺阿波おどり』で、踊り子たちが通るPAL商店街沿いの巨大シャッターに、躍動感溢れる踊り子と狼の行進がグラフィカルに描かれています」と大黒さん。躍動する踊り子の姿を、とくとご覧あれ。
◆場所:PAL商店街のシャッター 東京都杉並区高円寺南4丁目25-6
作家名:高橋洋平
PAL商店街のシャッターを後にして約1分歩くと、見えてきたのは6階建てのビルの壁一面に描かれた巨大イーグル! 今にも飛び立ちそうな雰囲気が漂うこの作品は、東京都内で屈指のサイズを誇る壁画なのだとか。
「高さ17m、横11mもあるKoenji Mural Projectの代表的な作品です。アーティストは、whole9という大阪の2人組ユニット。高円寺とのゆかりが深く、この作品制作のために一ヶ月高円寺に住み込み、暮らしの中から作品を生み出しました。あまりに大きすぎて、大きな絵だと気づいてない人も多いらしいです。壁と空を見上げて歩けば、きっといつもと違う発見がありますよ!」
JR中央線を使えば新宿駅まで数分という場所にある高円寺は、劇団員やバンドマン、画家やお笑い芸人など夢を追う若者が多く暮らしていることでも有名。この巨大イーグルが、そんな人たちの飛躍を応援しているかのような作品です。
◆場所:Studio L’agile (YSビル) 東京都杉並区高円寺南4丁目26-5
作家名:whole9
1階に飲食店、2階にスマホの修理店が入るこちらの壁面いっぱいに描かれたのは、いくつもの線とともに表現された象と牛。マルチな活動で知られる、みうらじゅん氏の著書『青春の正体』では彼が愛着を込めて高円寺を“日本のインド”と評しました。昔ながらの商店街に多くの古着店が同居し、雑多でカオスな雰囲気が魅力のこの街に、インドのシンボルが描かれた様子が味わい深さをプラスしています。
「日本の壁画やライブペイントアーティストの中でも特に人情に厚く、大人から子供にまで愛される高円寺在住のアーティスト、小田佑二の作品です。古いビルから新築ビルに生まれ変わるときに描かれ、壁画も含んだデザインでビルが完成するという珍しい作品が実現しました。近くで見ると模様のようですが、離れて全体をみると2頭の巨大な象と牛が重なり合って堂々と立っている様子が見えてきます。全て刷毛で描かれ、丁寧で美しい塗装の技術や込められた思いを、是非近づいて観察してみてほしいです」
◆場所:ゆとりすとK6 東京都杉並区高円寺南4丁目25-1
作家名:小田佑二
杉並区~中野区を流れる河川・桃園川。この川の名称は近くにある高円寺の境内に昔、桃の木があったことに由来します。全区間暗渠(あんきょ)化されているこの川の上に建つ緑道には、40mにもわたる作品が。黒いフォルムにカラフルな色が混ざり合うファンタジックな作品には、この川にまつわる伝説が投影されています。
「桃園川緑道の再生プロジェクトとして、杉並区からオファーをいただき実現した作品です。作家の岩切章悟は、日本全国や南米までも旅しながら作品を残しています。桃園と川など過去にあった風景を取り入れながら、その昔は出没したというかっぱ伝説や、もともと壁に埋め込まれていたレリーフ作品のモチーフなどもシンクロさせながら、明るくてハッピーな世界を描き、桃園川緑道のイメージをあるべき姿に一新しました。40mの長さを歩きながら、さまざまなストーリーを連想して楽しんでいただければと思います」
いろいろなモチーフを見つめながら散策すれば、童心に帰ったような気分に。高円寺のストリートアート巡りを締めくくるのにピッタリな作品です。
◆場所:桃園川緑道 東京都杉並区高円寺南2丁目50-7
作家名:岩切章悟
青森県生まれ。活動家。プロジェクトデザイナー・アイディアコンサルタント。2008年、高円寺AMPcafeを立ち上げ運営。2016年、アートホテルプロジェクトとして「BnAhotel」を共同代表として立ち上げ、企画・アートディレクションなどを担当。新しい取り組みをしたい全ての人の相談に応じ、アイディアを育てる手伝いをしたり、一緒に事業化に取り組んでいます。
「最近のアート界の潮流は、<表現者と鑑賞者>という従来の二者構造ではなく、<仕掛け人と協力者・体験者>という三者構造。クリスト&ジャンヌ=クロード、イサム・ノグチといったアーティストや安藤忠雄らが参加した直島 家プロジェクトに代表されるように、インタラクティブで実験的なプロジェクト型作品がますます注目を集めています」
今回は、高円寺で生まれたストリートアート5作品をご紹介しました。美術館や展覧会に限らず東京のあらゆる街角でリアルな芸術を愛でる、街のアート鑑賞を楽しんでみてはいかがでしょうか?
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