旅色プラス
絶えず新陳代謝し続けている東京の街。高度経済成長期(1950-70年代)は日本独自のデザインやプロダクトが花開き、そんな時期に建てられた“いいビル”も再開発や耐震問題を理由に、近年急激に取り壊されています。
今回ご紹介するのは、間も無く姿を消してしまう可能性が高い4軒。いいビルを通じて、職人の技術や街の歴史に触れながら東京の街を歩くと、新しい魅力に出会えるかもしれません。
Text&Photo: 西村依莉
新橋駅へ降りると、西(烏森口)はニュー新橋ビル、東(汐留口)は新橋駅前ビルと、どちらに出ても心揺さぶられる素晴らしきビルが迎えてくれます。
ニュー新橋ビルはJRの駅のホームからもよく見えるので、特徴的な外壁が気になっている人も少なくないはず。老朽化と耐震問題を理由に2029年までに新ビル竣工の動きはあるものの、今のところ具体的には未定というこちら。外観もビル内もきれいにメンテナンスが入り、大切にされてきたことが伝わってきます。
フィボナッチ数列(自然界に多く存在する配列現象)に倣った格子状の外壁は、近づいて横から見てみると全く違った印象を受けて面白いです。ビル内も種類豊富なタイル壁やぷっくりとしたガラスパネルがレトロフューチャーなエスカレーター、様々なデザインの階段室、そしてオープン時から続く飲食店など……、時間を忘れて楽しめる場所。サラリーマン向けのお店が多いですが、気の置けない呑み屋さんやステキな喫茶店もあるので、今のうちにたくさん通って細部まで記憶に刻んでおきたいです。
◆ニュー新橋ビル
住所:東京都港区新橋2-16-1
営業時間:店舗により異なる
休館日:奇数月の第2日曜(店舗により他定休日あり)
首都高沿いに建つ、ひときわユニークなルックスの中銀カプセルタワービルは、昭和の頃に人々が思い描いた未来の姿さながらです。1972年に黒川紀章氏によりカプセル型の集合住宅として作られました。真下から見上げた時のそびえ立つ姿もいいし、首都高を挟んで歩道橋の上から眺めるのもいい。目線のレベルを変えて楽しめるという点でも見応えのあるビルです。
外観最大の特徴である四角いカプセルは、ひとつがひと部屋になっていて、25年単位で新しく交換するという想定で作られた、メタボリズム(新陳代謝)建築。実際には交換されたことはありませんが、カプセルのひとつが埼玉近代美術館にぽつんと置かれています。
かなり老朽化が進んでいるため、現在カプセルを交換(史上初!)して保存するか、解体して新しい建物を建てるか、最終調整を行っている真っ只中。今年の10月までには結論が出るそうなので、もしかしたら、高度経済成長期の空気を生で感じる最後のチャンスになるかもしれません(そうなってほしくない! 交換希望!!)。1ヶ月単位で宿泊可能なカプセルが8部屋あったり、毎週末見学ツアーを開催したりと、内部を見るチャンスがいくつかあります。見学ツアーはバルコニー部分に出られたり、竣工当時の部屋に入れたりするなど、大充実の内容なので、まずは参加してみては。
◆中銀カプセルタワービル
住所:東京都中央区銀座8-16-10
見学ツアー:https://www.nakagincapsuletower.com/nakagincapsuletour
宿泊について:https://www.nakagincapsuletower.com/monthlycapsule
再開発予定エリアにそびえ立つオフィスビルの旧電通築地ビル。電通と銘打っていますが、現在の所有者は住友不動産でビル自体は閉鎖中、再開予定エリアなのでいつ何時取り壊されるか、正直気が気ではありません。
こちらは代々木第一体育館や静岡新聞東京支社ビルの設計で知られる建築家・丹下健三氏の代表的作品のひとつ。コンクリート造りで凸凹と突出した側面のパーツや、窓部分を深くくり抜いたようなファサード(建物の正面部分)など、全体的にどっしりとした力強さに思わず見入ってしまいます。ピロティの天井を見上げると、リブ状になった溝に蛍光灯が仕込まれていたり、入口の鷹らしきオブジェや丸くスペイシーな外灯、ゴツい印象なのに、よく見ると側面はアール窓になっている等々、至るところに見どころが点在しています。一周して色んな角度から堪能してほしいです。
2軒隣には同じく現在は住友不動産が所有する1967年築のオフィスビル、電通恒産第2ビルがあり、こちらはオフホワイトの外壁でガラリと印象が変わります。2つの窓を角がアールになった横長のハニカムモチーフで囲んだデザインがかわいらしい雰囲気。スリットになった7階部分のバルコニーが抜け感を生み、旧電通築地ビルとは対照的な軽快さがあります。首都高を挟んだ道路の反対側から、それぞれの個性をじっくり見比べてみてください。
◆旧電通築地ビル
住所:東京都中央区築地1-11-1
◆電通恒産第2ビル
住所:東京都中央区築地1-7-13
商業ビルである東宝ツインタワーがあるのは東京日比谷ミッドタウンのすぐ隣です。最新のぬらぬらとした鏡面が魅力な東京日比谷ミッドタウンビルと、エレガントな高度経済成長期のいいビルのコントラストが効いた風景も一興。
個人的には銀座側から晴海通りをまっすぐ皇居方面に向かっていると、蛇腹状のうねうねとした建物が見えてくるシチュエーションが好きです。最新ビル群を堂々と携えていて、その先は皇居なので高い建物がなく、空が広がるためとてもいい気持ちに。古いからといって肩身が狭そうに見えないのです。
1969年に建てられたこちらは、帝国劇場や国立近代美術館などを手がけた谷口吉郎氏の設計。残念なことに、こちらは年内に取り壊しが決定していて、中に入っているテナントは閉店準備に入っています。竣工同時からこのビル内で営業している「東宝ダンスホール」は11月に閉店予定。コンスタントに改装しているので古さを感じさせず、煌びやかな空間が広がっています。ダンスが踊れなくても入場料を払えばお茶ができるので、ぜひ閉店前に訪れてみてください(それをきっかけに社交ダンスを始めるのもステキですね……)。
◆東宝ツインタワービル
住所:東京都千代田区有楽町1-5-2
“ビルを見る”という、いつもとは違う視点で街を歩くことで、気づいてなかった東京の魅力を発見できた気分になるビルさんぽ。今回ご紹介したビルは割と近いエリアにあるので、散歩するのにもちょうどいい距離感。そして近隣には、今にも再開発によって取り壊されるかもしれないステキな名も無きビルが点在しています。どんどん変わっていく景色を実際に見て、脳裏に焼き付けておきたいもの。まだまだ暑い時期なので、休憩しながらマイペースに楽しんでください。 【関連記事】今見るべき! 高度経済成長期生まれな中野の“いいビル”【連載第2回】 高度経済成長期に建てられた“いいビル”を求めて街を歩くと、見慣れた風景がいつもとは違って... 【関連記事】今見るべき! 高度経済成長期生まれな浅草橋の“いいビル”【連載第3回】 街を歩けば大体出合える、高度経済成長期に建てられた“いいビル”。東京オリンピックに向けて...
◆西村依莉(にしむら・えり)
フリーランスの編集者・ライター。東京ビルさんぽメンバー。ファッション誌・ライフスタイル誌を中心に活動しつつ、高度経済成長期のステキな建築や街の風景を日々記録している。グラフィック社から『足の下のステキな床』『キャバレー、ダンスホール 20世紀の夜』(共著)、大福書林から『いいビルの世界 東京ハンサムイースト』(東京ビルさんぽ)が発売中。
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