[タベサキ Vol.3]
有名人のこだわり語り　“おいしい”話

渡部建さんインタビュー

全国

2018.12.27

タベサキ

芸能界きってのグルメとして知られる、お笑い芸人のアンジャッシュ・渡部建さん。外食のこだわりやオススメの名店など、知っておきたいグルメ情報満載のインタビューです。

Text: Yuko Takebayashi (effect)、Photo: Koutaro Kikuta、Styling: Yusuke Matsumoto、Hair&Make: Yuriko Koga、Location: Sushiizakaya Agemaki

美食の原点は寿司にあり
今では月に1度、グルメ旅へ

僕にとって食は一食入魂。毎日のおいしい出会いを大切にしたいので、今では食事を簡単に済ませることはほとんどありません。でも若手だった20代の頃はお金がなく、食べたいものを食べることができませんでした。その頃、そういったフラストレーションを唯一解き放てるのが、給料日に食べる回転寿司だったんです。当時の僕にとっては贅沢で、幸せな時間でした。

食に貪欲になったのは30代に入ってから。少しずつ稼げるようになり、これまで行けなかった有名店にも足を運ぶようになりました。けれど、最初から食を満喫できたわけではないんです。銀座の寿司屋にも行きましたが、礼儀作法や値段が分からず、ずっと緊張しっぱなし。せっかくの機会なのに、全く味を感じられていませんでした。

そんな時に四谷にある名店「すし匠」に行った際、当時の大将だった中澤さんが僕にこう言いました。「寿司は緊張して食べるとおいしくない。どんな食べ方でも構わないから、楽しんで食べていって」と。その言葉で今まで力んでいた気持ちがほぐれていくのを感じました。この食べる楽しみを教えてくれた、中澤さんとの出会いが僕にとっては大きかった。味や技術だけではなく、客を想うホスピタリティにも長けた素晴らしい職人がいるのだと、この時知ったんです。

目的地までのプロセスが
感動の出会いをつくる

おいしい料理、素晴らしい職人に出会うためなら、遠方にも足を運びます。40代に入ってからは月に1度は東京を離れて、グルメ旅をするというルールを自分に課しているんです。旬の食材を意識するのはもちろん、親しい料理人の口コミなども参考にして場所を選びますが、僕の旅はこのリサーチのプロセスが勝負なんです。人は舌だけでなく脳でも味わっているから、どんな食材を使っているのか、どんな人が作っているのか……そんなストーリーを頭に描いてから食べるほうが絶対においしく感じる。遠方の恋人に会いに行くのと同じように、労力をかけることで一層楽しみが増すんですよ。

ここ最近で感動したのは、札幌にある「鮨の蔵」。雑居ビルの地下にある、バーの居抜きで5席しかない小さな店なんですが、出す料理がとにかくすごい！　ここの大将はこれまでの寿司の常識をすべて疑って、研究して、すごく面白いことをするんです。しかも半田ごてや工業用ドライヤーなどを使うなど、考えつかないものばかり。例えば、キンキは熱を加えた方がおいしくなるんですが、しゃぶしゃぶにすると皮と身の間にあるおいしい脂が落ちてしまうというデメリットがあります。そこで、大将は器にお湯を入れてラップをはり、その上に身をのせて湯煎の要領で熱を加える、ウォーターベッドという技を編み出したんです。キンキの加熱は炙るか茹でるかの選択肢だったなかで、こういった発想をする人はいませんでした。これは褒め言葉ですが、とんでもない変態（笑）。本当にすばらしい職人です。こういったチャレンジをしている料理と作り手の心意気に触れて感動する、それが僕にとってのグルメ旅の醍醐味です。

Profile

渡部建／Ken Watabe

1972 年生まれ、東京都出身。お笑いコンビアンジャッシュとして活躍する傍ら、「王様のブランチ」（TBS 系）や「FNS 歌謡祭」（フジ系）でMC を務めるほか、著書や雑誌連載多数と幅広く活躍する。また、芸能界屈指の食通としても知られ、日々の食べ歩きブログが大好評。会員制グルメコミュニティでは全国各地の名店紹介なども行っている。