高校二年の夏休み、島根県の隠岐の島に行った。
 そこで起こった出来事は『色即ぜねれぃしょん』という小説に書いたし、映画にもして頂いた僕の旅の原点のようなものなんだ。
 随分と旅はしたけど、青春ノイローゼを患い、いい年こいた今でも完治していないのは全てその5泊6日のお陰。実は翌年も同じ隠岐の島ユースホステルに泊まったので合計、10泊11日となるけど、長い人生にとっちゃほんの数日。ユースは基本、連泊が2泊までなので僕と友達二人は近くの民宿で1泊し、またユースに戻るという熱の入れ様。
 「明日の朝、帰りますがまた来年、絶対来ますんでよろしく!」
 ユースにはつきもののミーティングと呼ばれる自己紹介や、芝生の上でギターを弾いてみんなで合唱する儀式。初めは恥ずかしくて大人しくしてたけど、青春ノイローゼが発病してからは率先して参加するようになった。
 「なぁ、不良高校生──」
 また、うれしいことに大学生だったユースのヘルパーさんがそんなこの島限定のあだ名で僕らのことを呼んでくれるのでさらに調子に乗った。
 中・高と男子校で、モテる要素のカケラもなかった上に、クラスの不良たちに目を付けられないようビクビク生きてきた。やはり成長するということはキャラを替えることなんだと気付いた旅だった。
 朝一の船で帰っていく人たちを見送るため、僕らは近くの小さな港まで猛ダッシュした。
「来年、ここで会おうね、約束だよ不良高校生」、前夜、満天の星の下で女子にそんなこと言われたら惚れてまうやろ!
 「絶対、帰って来てや!」僕はその人が立つ船のデッキに向かって島民気分で叫んだけど、実は僕も明日、帰らなきゃならなかったわけで……。
 でも、そんな自分の立場すらすっかり忘れてしまっているところも、青春ノイローゼの由縁である。
 しかも僕は水平線の彼方に消えていく〝君を乗せた〟船を見つめ、泣いていた。
しばらくしてヘルパーさんの一人が静かに近付いて来て「な、不良高校生。分かるだろ? サヨナラだけが人生さ」と言って僕の肩をポンと叩いた。あぁ、号泣!
 旅はどうかしてなきゃ。だって自分なくしの修行でもあるんだから。
 久しぶりに家に帰ると(と、いってもほんの数日だけど)、部屋の机や椅子が何だか低く見えた。それはこの旅で少し成長したってことなのかい? 僕は遠い隠岐の島を想い、一人、部屋に籠り、頼まれもしないエッセーを書いた。大切なことは思い込み。思い込み一つで旅は永遠の思い出にもなるってことさ。