――羽田さんは京都にお詳しいですが、そのきっかけはなんだったのですか。

30代前半のころ、仕事の関係で半年ぐらい京都に行きっぱなしだったことがあるんです。で、ぽっかり休みができたときは、「よし、今日はあそこに行ってみよう」と、フットワークよく京都の町を歩いていました。ふらっと入ったおせんべい屋さんが美味しくて、気に入って何度も訪ねていると「また来たんか」って言っていただける。そうやって、好きな場所がどんどん増えていきました。 “一見さんお断り”のお店も結構あったんですけど、周りの人に「紹介して」ってお願いすると、割りとすんなり紹介してもらえて。人情にも助けられ、自分の足で歩いて、自分の人脈で人と出会い、つながっていくという貴重な体験のなかで、京都の知識が蓄積されましたね。

――とても素敵な体験ですね。羽田さんのように、いい出会いをするために大事なことは何ですか。

“思いやり”でしょうか。初めて会う人同士でも、人と人が触れ合うことで何か引き出されることもあるし、いい化学反応が起こることもある。人生って、一期一会の繰り返しだと思うんです。だから旅先でも思いやりをもって積極的に関わることで、素敵な出会いが生まれるような気がします。

――なるほど。人と関わることで旅に深みも出ますね。

それと、ハプニングも大事ですね! 昔、パリに友達と二人で行ったとき、乗るはずだった飛行機に乗り遅れてしまったことがあって。出発の3日ほど前に時間の改正があったらしいんですけど、二人とも見落としていたんですね。「さあ、どうしよう」と二人で顔を見合わせてしまったけど、どうせならあと一日、パリを満喫しよう! ということになり、かえって楽しんじゃいました(笑)。20年ぐらい前のことですけど、今もいい思い出になっています。ハプニングや出会いって、旅の味わいですよね。何も起きないより、何か起きたほうが絶対、面白いです。

――ハプニングは確かに旅のスパイスになりますね。旅をするときは自分でプランを立てるのですか。

一緒に行く相手によりますね。たとえば、両親を連れて毎年旅行をするんですけど、その場合は、私がきっちりリサーチして、計画を立てます。両親は私に任せっきりで「今度はどこに連れてってくれるの?」という感じ。もう高齢なので、最近は箱根や湯河原など、私の運転で行けるところが多いですね。逆に夫との旅行では、彼が感性の人なので「このへんがよさそうだ」って選んでくれます。でもね、なぜか外れがないんです。本能で生きているような人なので、勘が働くのかな。そこはすごいなって思って任せています(笑)。

――旅先では、写真をよく撮ると伺いましたが、どんな写真を撮るのですか。

実は、かつて出演した『想い出つくる写真旅』(BS11)という番組で、プロの方に教えていただく機会があって、明確に目的をもって写真が撮れるようになりました。それまでは、単に景色がきれいだから撮っておこうという“記録を残す写真”だったけど、今は、自分の感性を表現することを意識しています。何を見て、何を美しいと思って撮るのか。構図はどうすればいいのか。そういうことを意識するだけで、写真が全然違ってくるんです。以前の写真を見ると、まなざしが散漫だったなあって恥ずかしいぐらい。撮るものに愛がないと、きれいな写真って撮れないんですよ。今は、だいぶいい写真が撮れるようになった気がします。

――いつも旅を楽しんでいらっしゃる羽田さんですが、旅にはまったきっかけを教えてください。

きっかけは、20代のころ、『世界ウルルン滞在記』(TBS系)という番組で、ルーマニアのシク村に行ったことですね。私がティッシュやペットボトルを捨てようとしたら、現地の人に「ごみ箱はないよ」と言われたんです。それもびっくりでしたけど、中身を見て、「ああ、全部使えるものばかりだ」という言葉にも驚いて、どういうことかと聞いたら「ペットボトルはピクルスを漬けるのに使える。紙くずは暖炉にくべればいい。無駄なものはひとつもない」というんです。食事のときも、村の人みんなで鶏をさばいて、分け合って大事に食べているんです。決して豊かじゃないけど、助け合い、ものを大事にしながら暮らす生活がそこにはあって、ああ、これが人間本来の豊かさなんだなあって思ったんです。

――それは、カルチャーショックでしたね。

ええ。私たち日本人は、いつの間にか、こういう豊かさを手放してしまった、豊かだと思っていることが、本当は貧しいことなのではないか。そんなふうに、日本を一歩引いて見られるようになりました。なんだろう、自分の立ち位置を知った、ということかな。旅って、人を大きく育ててくれるなあって思いましたね。それからは、もっと知らない土地に行って、いろんな文明を体験したい、人と触れ合いたいと思うようになって。それが私の旅の原点になった気がします。